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エラワン哀歌 №3 [文芸美術の森]

きっとどこかに

         詩人  志田道子

音は無い
時の縦糸はゆっくりと繰られ
頼りなく 絶えることなく
漆黒の闇が 時折金箔の
記憶のかけらを巻き込みながら
織り続ける
無念

突如柏の葉が風に
激しい雨のような骨をたて震えれば
温かい毛に被われた黒い熊も
深い森で身震いするのだろう
十キロ先から餌の臭いを 嗅ぐ
濡れた鼻先を風に向け
探すのは 人の
愛 敵意 (おそれ)
ゆっくりとしたたかに動く時空のなかで
熊の細い金色の目も
人の足指も
きっとどこかに流れて行く のだろう
時というものがやって来て
過ぎ去って行ってしまった
その先で
じっとこちらを見ている
わたしの顔

『エラワン哀歌 志田道子詩集」 土曜美術社

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