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往きは良い良い、帰りは……物語 №95 [文芸美術の森]

往きは良い良い、帰りは……物語
こふみ会通信 №95 (コロナ禍による在宅句会 その10)
「鯉幟(こいのぼり)」「玉葱(たまねぎ)」「五月闇(さつきやみ)」「冷蔵庫」
               俳句・こふみ会同人・コピーライター  多比羅 孝

当番幹事(尚哉氏&兎子さん)から連名で≪令和3年5月の句会≫の案内が届きました。

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いつのまにか、夏の季語を選ぶ時節になりましたね。
四季の移ろいが、すこし前倒しになっている、とも感じます。
さてさて、今年もまた、ゴ-ルデンウイークはステイホーム。
どうかゆったりと、俳句の世界にお遊びくださいますよう。

<兼題>   鯉幟(こいのぼり)
     玉葱(たまねぎ)
     五月闇(さつきやみ)
     冷蔵庫(れいぞうこ)
<日程> 投句の締切 5月14日
     5月17日ころに、全句をシャッフルした一覧を、お届けします。
      選句と天句に関する鑑賞短文(コメント)の締め切りは、5月21日ころを予
      定しています。
      トータルの最終発表は、5月25日を目標とします。
<投句先> 尚哉 兎子
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【この通知によって作成・投句された今回の全作品】下記のとおり  17名  68句

【鯉幟(こいのぼり)】
天晴れの空呑み込んで 鯉幟(鬼禿)
単線の無人駅にも鯉幟(弥生)
満月と戯れてをり鯉のぼり(華松)
いち推しの絶滅危惧種や鯉幟(尚哉)
太陽の匂ひを仕舞ふ鯉のぼり(すかんぽ)
もの干しの鯉でも元気裏長屋(一遅)
校庭に空百ぴきの鯉のぼり(小文)
生き死にを風にまかせて鯉幟(虚視)
回り道してまで見たい鯉幟(舞蹴)
人生を 泳ぎきれよと 鯉幟(茘子)
元気なのは 鯉幟だけかも 知れんなあ(孝多)
風渡る谷100匹のこいのぼり(玲滴)
押入れの奥で泳ぐか 鯉幟(兎子)
竿の先  風満腹に  鯉幟(紅螺)
風力で夢ふくらむや鯉幟(下戸)  
鯉幟が浅間を一気に呑みこんだ(矢太)
矢車の音軽やかに茅の家(可不可)

【玉葱(たまねぎ)】
さくさくと刻む玉葱妻は留守(舞蹴)
玉葱がごろんと富良野スープカリー(すかんぽ)
玉葱をガリリと噛んで 鉄人レース(鬼禿)
ステーキと呼ばれ玉葱赤くなり  (下戸) 
玉葱を刻みて泣かぬ女房かな(可不可)
手のひらの新玉ねぎの透くはだえ(小文)
在宅勤(ざいたくきん) 連日オニオン スライスだ(孝多)
玉葱をさらして臨むオンライン(尚哉)
水紋を閉じ込めました玉ねぎに(華松)
玉葱の   皮で染めたる  灰黄色(紅螺) 
玉葱はいのちを放つ小天体(矢太)
さらされて刺激弱まる 玉葱も(兎子)
ほたほたと玉葱煮ればとろけゆき(虚視)
忘れられし 玉葱芽ぶく 天指して(茘子)
玉葱のせいにして泣く姉二十歳(はたち)(弥生)
たまねぎをストンと切って生きている(一遅)
新玉の辛さに思う人のあり(玲滴)

【五月闇(さつきやみ)】
五月闇家ぬち流るる秒針の(小文)
信号の赤の色濃し五月闇(すかんぽ)
五月闇  会いたき人が3〜4人(紅螺)
メール来ずひとり空見る五月闇(一遅)
片付かぬ部屋の隅には五月闇(舞蹴)
人型の香り残りて五月闇(虚視)
なにもかも忘れてしまへ皐月闇(矢太)
白犬の墓標は白く五月闇(弥生)
人の世の 五月の闇の 深さかな(孝多)
年降りて越ゆべき坂や五月闇(玲滴)
家に居れば心塞ぎて五月闇(尚哉)
五月闇君の香りが強くなり(華松)
匿名が有名を殺す五月闇(下戸) 
独居にて昔を悔やむ 五月闇(兎子)
五月闇かつて喫せしゴロワーズ(可不可)
白檀の 香(か)のすれちがう 五月闇(茘子)
ただ眠る菩提樹の下 五月闇(鬼禿)

【冷蔵庫(れいぞうこ)】
寂しさは男一人の冷蔵庫(舞蹴)
元カレの ビール捨てきれず 冷蔵庫(茘子)
冷蔵庫あまおうワンパック妻は留守(一遅)
冷蔵庫君と僕との腕比べ(小文)
冷蔵庫にひっそり正義は眠っている(矢太)
所帯ありキミとぶきっちょな冷蔵庫(下戸) 
ホームステイ 何んにもなくなる 冷蔵庫(孝多)
溜息をふっと出したる冷蔵庫(華松)
冷蔵庫に  旨き酒あり  巣籠もりもよし(紅螺)
酒がある 酒だけがある冷蔵庫(兎子)
独り言つぶやき夜の冷蔵庫(虚視)
冷蔵庫と口喧嘩しつ 独り活き(鬼禿)
真夜中の冷蔵庫だけ生きてをり(可不可)
子育てを了へし旧型冷蔵庫(すかんぽ)
冷蔵庫コロナで食材豊かなり(玲滴)
冷蔵庫にしまってあるの遠き恋(弥生)
家飲みのアテ豊かなり冷蔵庫(尚哉)
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【天句の鑑賞】
「天」に選んだ句とそれに関する鑑賞短文を簡潔に書くという約束事。

●天句=太陽の匂ひを仕舞ふ鯉のぼり (すかんぽ作)
★鑑賞短文=日向で泳ぎ切った鯉のぼりの、暖かな匂いがふわっと鼻先までやってきた。五感が震える句ですね。素晴らしいです。(下戸)
★鑑賞短文=鯉幟が泳ぐ様子より、匂いに焦点を絞ったところに感服です。(華松)

●天句=鯉幟が浅間を一気に呑みこんだ (矢太作)
★鑑賞短文=爽やかでおおらかな、気持ちの晴れやかになる句。(弥生)

●天句=ほたほたと玉葱煮ればとろけゆき (虚視作)
★鑑賞短文=台所に立つ人の姿を思い浮かべて「ほたほたと」が好きです。(玲滴)

●天句=たまねぎをストンと切って生きている (一遅作)
★鑑賞短文=ストンと切ったたまねぎに、人生の断片を見たような。軽さの中にも不変のフィロソフィーを感じる秀句ですね。(すかんぽ)
★鑑賞短文=いさぎよいなぁ。研ぎたての包丁なのだろう。ストンと真っ二つに割れた玉葱から滴る光景が鮮やかに捉えられている。(虚視)

●天句=信号の赤の色濃し五月闇 (すかんぽ作)
★鑑賞短文=静かな雨の季節、赤い信号だけが色鮮やかに灯る夕暮れ、美しい映像のような句だと思います。(紅螺)
★鑑賞短文=湿気に満ちた薄暗い空間に赤が滲むような、濃い悲しみを感じました。(兎子)

●天句=人の世の 五月の闇の 深さかな (孝多作)
★鑑賞短文=「人の世」って言葉がすごい! そういえば「自然の中に人間が存在する」のですね。「五月闇」って季語新鮮でした。(舞蹴)   
★鑑賞短文=闇とは恐れを、そして疑惑を引き起こす。万物が成長し、太陽が輝く五月の闇はより深い闇、「人の世の」の初五の言葉が闇の深さを、さらに意味深く感じさせる。(茘子)

●天句=五月闇君の香りが強くなり (華松作)
★鑑賞短文=「香り」は、嗅覚だけではありません。濃厚なる五感の競演ともいうべき、世界観です。(尚哉)
●天句=白檀の 香(か)のすれちがう 五月闇 (茘子作)
★鑑賞短文=どんよりと湿った薄暗い日に何処からともなく白檀の香りがしてきたら思わず立ち止まってしまうでしょう。そして美しい雨が降ってきそうです。(小文)

●天句=冷蔵庫にひっそり正義は眠っている (矢太作)
★鑑賞短文=「冷蔵庫」のこの句によって、すぐに思い出されたのは坪内稔典氏の句「六月の古いテレビがヒヒヒヒヒ」です。「古いテレビ」の句も「冷蔵庫」の句も私の言う思考的かつ擬人的な句で、きわめて高い独創性を発揮しています。月並みであることを拒否している姿勢です。秀句をお示し頂き、有難うございました。(孝多)

●天句=子育てを了へし旧型冷蔵庫 (すかんぽ作)
★鑑賞短文=どなたの句でしょうか。うまいですね。私達の子育ての頃はアメリカアメリカの家電。中でも角が丸味の冷蔵庫・我が家でもマスターイエローのW.H.でした。懐かしい・・。育てた子等ももうすぐです50。寂しい句の中で「ホッ」としました。有り難う(鬼禿)
★鑑賞短文=十何年、共にご苦労様でした!(可不可)
★鑑賞短文=家族の食生活を、幾星霜、一手に担ってきた主婦の自負と時の流れへの感慨が見事。(一遅)
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【幹事より、ひと言】
今回はなんと、お一人の方が突出して得点を集めました。
添付を見ていただければすぐにわかるので、最初から明かしてしまいましょう。
それは、「すかんぽさん」でした!
天句がなんと49点、4句合計が、93点!
どちらも、記録的な数字です。
その圧倒的な結果に、心から敬意を表したいと思います。  (尚哉&兎子)
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【今月の成績一覧】
◆トータルの天=すかんぽ・93点
 代表句=太陽の匂ひを仕舞ふ鯉のぼり
◆トータルの地=華松・38点
 代表句=溜息をふっと出したる冷蔵庫
◆トータルの人=虚視・29点
 代表句=ほたほたと玉葱煮ればとろけゆき
◆トータルの次点=茘子・26点
 代表句=白檀の 香(か)のすれちがう 五月闇

◆◆皆さん、おめでとうございました。◆◆
上記の「トータル・ランキング・リスト」で光っている方々をはじめ、佳句をものされた各位、おめでとうございました。本来ならば「帰りも、良い、良い」だったのではないでしょうか。憎っくきコロナめ、集まって、わいわい、がやがや、飲るのが楽しみなのに……ああ、在宅句会は、これで10回目。緊急事態宣言も延長々々のご時勢、情け無し。

いとせめて、「風、新しく」を願って、今回から常設コラムになった「幹事より、ひと言」の内容は、ごらんのとおり、得点結果の痛快なる「やったぜ噺(ばなし)」。
さて、次回は、どなたが幹事か、どんな話題になるか……。
「提案」「質問」」「ご意見」「確認」……などなど。率直にお願いしたいものです。
内容は勿論、こふみ会に関連するものごと案件に限るわけですが、自由に積極的に、ぜひ、お願いします。お声を聴かせてください。では、また。次ぎは六月の句会です。どうぞ、皆さん、お元気に。(令和3年5月末日 多比羅 孝多)





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