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地球千鳥足 №142 [雑木林の四季]

ミス・チリの嘆き ~チリ共和国~  

   グローバル教育者・小川地球村塾塾長  小川彩子 

 南米チリの北方、サン・ペドロ・デ・アタカマはチリにおける最古の町で、アタカマ砂漠にあり、アタカマ砂漠は世界3大砂漠の1つだ。海抜2400mの不毛の荒地に人がやってきて、お金が集まる時代になったのだ。自然に出来た地形が月面のクレーターのように見えるので「月の砂漠」とも呼ばれる。岩肌の表面を掘ってみれば岩塩の層で形成されている。この乾燥地帯に髪黒々とした少女のミイラが発掘されてこの地が一躍有名になった。博物館ではミス・チリと親しまれており、周辺には岩塩湖、温泉、間欠泉群もある。
 異様な風景を期待してやってきた筆者だが、山岳地ならさほど珍しくない風景に、観光的希少価値があるのだろうかと現地に来て疑問を感じた。ある写真家の山岳写真が月面に似ているということで宣伝に一役買い、観光業者が目をつけたのだろうか、溢れる観光客をさばき切れず、適当な対処で儲け主義に徹した対応が目立った。旅行客対応しかり、粗末な宿泊施設、埃だらけのじゃり道、砂漠なのにエアコンの無いミニバス、等にひきかえ、周辺の宿屋食堂を含めてお値段だけが先進国並みだった。地球観光に飽きて、もう行く所のなくなったお客ならいざ知らず、宣伝に踊らされて来てがっかりした客も少なからずいた。我々夫婦が訪問したのは10年以上前だが、現地の観光案内所でクレーム投書の多さに驚いた。「注意しろ!」、「警告!」の行列で、エゲツない商売への指摘で溢れていた。
 我々夫婦は別行動で観光の申し込みをした。山岳方面を選んだ夫はホテルでのピック・アップを忘れられ、その日1日を棒に振ってしまった。約束の日の早朝4時に待機していたというのに。サンライズから始まり、この地の名所の殆どを含む観光だった。会社の言い訳は、「出発日を間違えていた!」と。そして、「明日どうですか」と。遠隔地からの旅行者にとって1日がいかに重要か!常識を逸脱した態度に、「開いた口がふさがらなかった!」と夫。筆者の方は時間通りに迎えに来た。だが砂の舞う砂漠を何度も歩かせるのがこの地の観光法、高い観光費の割にはエアコンの無いバスに満杯の乗客、窓際は直射日光を遮るカーテンも無く、強烈な陽光が当たりっぱなしで病人や病気寸前の人が続出した。
 それにしても草木も無い殺風景な岩漠だけの地へなぜこうも世界中から人がくるのか?
筆者には少女のミイラの霊が地域活性化のために人々を招くのではないかと思えた。彼女が育った時代の貧しい暮らしを人々に知ってもらいたくて。だが、月の表面のような異次元的風景だけが強調され、彼女や当時の生活事情は紹介されない。村のメイン・ストリートになっている土地で、ミス・チリたちはどんな暮らしをしていただろう?当時の生活を伝える工夫のない観光業者の暴利商法合戦をミイラたちは嘆いているに違いない。ミス・チリの額にケンが見られたのは気のせいだっただろうか?
 その後とある新聞記事で、この少女ミイラがアタと命名され、ブラックマーケットで売られ個人所有になったと知った。アタの額のケンはより深くなり、「アタカマ恋しやチーリチリ」と、嘆きの涙に明け暮れているのではなかろうか?「ミス・チリはやはりアタカマに戻してあげたいなあ!」と同情が止まない今日この頃だ。

142-1.JPG
月の表面のようなアタカマ砂漠
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ミス・チリ
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San Pedro de Atacamaにある考古学博物館で入手した記念品

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