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検証 公団居住60年 №77 [雑木林の四季]

ⅩⅢ 独立行政法人化して都市再生機構に改組

 
    国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

5.都市再生機構法案と国会審議

 独立行政法大都市再生機構は、都市基盤整備公団を廃止し、地域振興整備公団の一部を統合して設立される。法案は2003年2月12日に閣議決定、第156国会に提出された。機構の組織、運営、財務の大枠は独立行政法人通則法(01年1月施行)できめられており、新法は第3条(機構の目的)のほかは、おもに業務の範囲と実施方法等をさだめている。
 通則法によると、法人の長と監事は主務大臣が任命し、解任する権限をもつ。制度上の要となるのは、主務大臣が決定する「中期目標」(3~5年目標)であり、これをうけ法人が「中期計画」を作成する。計画は「業務運営の効率化」「財務内容の改善」を図るものでなければならない。総務省のもとにおかれる「評価制度委員会」は、たえず法人の組織・業務を評価し、定期的に(3~5年ごとに)中期目標にてらして「当該独立行政法人の存廃・民営化にっいて検討する」ことになる。独法化の目的は、公共的な事業を「効率的かつ効果的に行わせ」、やがて廃止ないし完全民営化していくための中間段階、橋渡し役にしており、会計処理は「企業会計原則」による。ただし余剰金の使途は主務大臣の認可を要し、「企業の自由」は制限される。
 都市再生機構法案の提案理由をつぎのように説明している。
 大規模な工場跡地や地上げによる虫食い地等の土地利用は適切に転換できておらず、密集市街地については権利関係が複雑なため民間だけでは整理改善が困難な状況にあり、民間による都市再生の条件整備を図ることが大きな課題となっていると前置きして、機構の目的をかかげる。
 1.すでに市街地を形成している区域において都市再生に民間事業者を誘導するための条件整備として、権利関係の調整等のコーディネート業務や関連公共施設の整備をおこなう。
 2.賃貸住宅の供給は民間事業者にゆだね、機構は敷地を整備し提供する。
 3.都市公団から承継する賃貸住宅を管理し、必要な建て替え等をおこなう。
 4.新たな市街地整備を目的とする宅地開発、政策的に機構が実施する必要のない業務は新規に着手しない。
 全国自治協は法案審議をまえに国会各党に要望事項をしめし、協力要請と懇談をかさね、各地方自治協でも地元選出議員に要請をつづけた。各党もこれを重視し、自民党には「公団住宅居住者を守る議員連盟」、民主党では「公的貸賃住宅の将来を考える市民・議員懇談会」が結成され、かつてない状況が生まれた。これら議員連盟はいまも続いている。
 都市機構法案は2003年4月18日に衆院国土交通委員会で審議にはいり、6月13日の参院本会議で可決成立した。委員会審議は衆院で5月7、9、14日、参院も6月10、11、12日の各3日間ひらかれ、うち各1日は参考人質疑がおこなわれた。両院各委員会とも賛成多数で可決した後、全会一致で政府と機構にたいする付帯決議を採択した。
 数多くの特殊法人が審議らしい審議もないまま、ほとんど一括で独法化されてきたのにたいし、都市機構法案については両院とも各3日間、委員会審議と自治協代表をふくむ参考人質疑がおこなわれたことは、当時の国会状況のなかでは大きな成果といえよう。審議にあたっては各委員とも自治協の要清をうけとめ、有効な大臣・政府答弁を引き出すことができた。委員会室に各自治会から延べ700人以上の傍聴者がつめかけ、大臣をはじめ各委員の注目をあつめた。「こんなに多くの方が傍聴される委員会は数少ない。それだけ心配されているんです」との発言がその場の雰囲気をったえている。
 法案審議は冒頭から「新法人になっても住みつづけられる権利が守られるかどうか」との質問に、扇千景国交大臣は「ぜひご安心いただきたい。現に入居している居住者の安定に最大限に配慮することだけはきちんと担保させていただく」と答えた。既存公団住宅の役割と居住の安定確保にかんするかぎり審議はこの基調ですすんだ。
 参考人質疑には、衆院は岩沙弘道(三井不動産株式会社社長)、山口不二夫(育帽院大学教授)、多和田栄治(全国自治協代表幹事)、参院には伊藤滋(早稲田大学教授)、原田敬美(東京都港区区長)、片岡規子(全国自治協幹事)が立った。
 参考人の冒頭発言で岩沙は、新法人にたいし民間ディベロッパー事業に先だつ都市基盤整備と、公団既存住宅の建て替えによって生まれる余剰敷地の提供に期待を表明した。経営分析が専門の山口は、借入れ過多依存のなかで不適切な資産を増やしつづけ、不良資産化している都市整備部門の不健全な経営と、賃貸住宅部門で稼いだ毎年3,000億円弱の利益が支払い利息ですべて消えてしまう構造についてのべた。多和田は全国自治協の調査をもとに、居住者の生活と家賃負担の実態を紹介しながら、収入に見合った家賃制度への改善をもとめ、新法人が管理の民間委託拡大や住棟売却ではなく、住宅と住環境の保全、コミュニティの形成に寄与するよう訴えた。

『検証 公団居住60年』 東信堂


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