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往きは良い良い、帰りは……物語 №93 [ことだま五七五]

往きは良い良い、帰りは……物語
こふみ会通信 №93 (コロナ禍による在宅句会 その8)
「若鮎」「水温む」「東風(こち)」「3・11」
                俳句・こふみ会同人・コピーライター  多比羅 孝

当番幹事さん(舞蹴&下戸氏)から連名で≪令和3年3月の句会≫の案内が届きました。

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●日程:本日(3月1日)出題
    ・3月8日(月)~10日(水)の間で投句を。
    ・14日頃、投句リストを返信。
    ・15日(月)~17日(水)の間で選句を。
     天句にはコメントをお願いします。
    ・3月21日(日)午後1時に、結果発表予定。
●兼題:  ①【若鮎】
      ②【水温む】
      ③【東風(こち)】
      ④【3.11】 無季。季語を選んで作句を。
●投句先:マイケル 下戸
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【通知によって作成・投句された今回の全作品】 17名  68句

<若鮎>
若鮎がくるりと跳ねて山は晴れ(一遅)
堰(せき)挑む若鮎の背虹かかる(茘子)
空青し川青し風青し鮎青し(矢太)
釣り上げし若鮎を流れに返す人(孝多)
若鮎の宙を飛びゆく調布堰(すかんぽ)
若鮎の食み跡薄し岩の苔(可不可)
パシャーッ!若鮎が・璃花子が跳ねる
若鮎や背越しに抜ける京の風(小文)
若鮎よ食べ頃というおそろしさ(兎子)
若鮎のカステラが好き求肥も好き(尚哉)
群れるほど若鮎たちの美しき(下戸)
魚道のぼる若鮎命きらめかせ(弥生)
若鮎やすでにはらわたほろ苦き(虚視)
若鮎は息を溜めつつ跳ぶを待ち(華松)
若鮎を汲みし川面に水光る(玲滴)
若鮎のぱしゃぱしゃ跳ねて姿無し(舞蹴)
若鮎は右に左に水草の川(紅螺)

<水温む>
寝続けて許されるよに水温む(兎子)
足かけて甕のぞく猫水温む(弥生)
犬と猿どっちもどっち水温む(下戸)
人々の噂話や水温む(舞蹴)
水温む金魚よタンゴを踊ろうよ(茘子)
水温みザブザブ音立て濯ぎたり(華松)
水温む・・北極海の薄氷(鬼禿)
水温む天地に万物育ぐくまる(孝多)
水ゆるむ体の森をゆるゆると(矢太)
水温む柱時計のボーンボン(虚視)
水温む日ごと延びるや散歩道(小文)
ぬか漬けを切る朝楽し水温む(一遅)
太陽をぐるり一周水温む(すかんぽ)
水温み理系男子も薄化粧(紅螺)
水温み一週分の髭を剃る(可不可)
水温む今日猪苗代のあたりまで(尚哉)
閉園の昭和の池も水温む(玲滴)

<東風(こち)>
東風吹けば山軽々と降りてくる(矢太)
朝東風をぐいぐい進むおさげ髪(すかんぽ)
強東風に襟かきあはす逢瀬かな(弥生)
東風に載せ届けやりたきふれ太鼓(尚哉)
天神の杜(やしろ)の絵馬の東風の梅(孝多)
東風ぬける湯島天神男坂(鬼禿)
東風吹けば礼拝堂の風見鶏(紅螺)
おかえりと風鈴鳴らす東風の家(下戸)
人絶えし雑踏の街東風の吹き(虚視)
朝東風や襟元押さえ駅急ぐ(小文)
東風吹いてさっちゃんそろそろ三輪車(一遅)
東風の色花粉をまぶして薄黄かな(華松)
東風吹きて錆つきし胸ギイと鳴る(茘子)
東風吹いて今年は孫も高校生(玲滴)
石を捨て枯れ草を焼き東風がくる(兎子)
東風吹くや天婦羅さらっと軽く揚げ(可不可)
東風吹いて式終えし子の安堵かな(舞蹴)

<3・11>
振り返る十年振り返れぬ十年3.11(一遅)
3月や神はいまだに現れず(矢太)
海底(みなそこ)へ許せ許せと桃の花(茘子)
春だっちゃ? 春が来たっちゃ3.11(尚哉)
トモダチを3.11 忘れない(下戸)
生き延びし婆は種蒔く丘の上(すかんぽ)
3・11 拾ふ記憶の桜貝(小文)
10 年の日曜大工か3.11(華松)
憐むな3.11 地虫出づ(兎子)
3・11 今なお癒えず春の雨(孝多)
すがた無き人行き交いて春浅し(虚視)
逝きし人まだここにおわす3・11(紅螺)
黒い波帰れぬ故郷三一一(舞蹴)
3・11 あの日から雪降り止まぬ水の底(鬼禿)
コロナ禍に3・11を生きる春(玲滴)
悲しみの色は鈍色春の海(可不可)
余震なほ3.11 傷深きかな(弥生)

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【天句鑑賞】

●強東風に襟かきあはす逢瀬かな【弥生】
・色っぽい!和服の似合う美しい女性。逢瀬羨ましいな〜。故・安西水丸さんの句のようで好きです!(舞蹴)
・色気のある句。東風が吹いているときに、なにをしてるの、と思われても止まらない逢瀬かな。(下戸)

●東風吹きて錆びつきし胸ギイと鳴る【茘子】
・さまざまなものを目覚めさせる東風。作者もまた、遠い日の何かが心の中に目覚めたのでしょうか。中七下五が絶妙と感じました。ただ、投句は半角空けになっていますが、意図なき文字間空けは本来無用と存じます。(すかんぽ)

●水温む金魚よタンゴを踊ろうよ【茘子】
・大胆な視線で意表をついた。なんともアナーキーでいいなあ。(矢太)
・翻る金魚の裳裾からタンゴへの飛躍。窓辺の金魚鉢は光煌めくクリスタルのホールに。素敵だ。(虚視)
・見事な擬人法です。「水」は空気、「金魚」は赤いドレスを着た美人。佳句をお示し頂き、誠に有難うございました。(孝多)

●すがた無き人行き交いて春浅し【虚視】
・図らずも整理番号311。この句を筆頭に上位5句すべて「311」から選びました。この兼題は実にタイムリーで作句時期いやでも被災の現場に追いやられました各人のあの時の実感を直に表現されたいい句多かったようです。中でもこの天句は今回私が見た「現場取材の映像」の奥に必ず居た『すがた無き人々』の実像(霊?)でしょう。「悲しく切ないなんとも優しい寒春の詩」をありがとう。(鬼禿)

●水温む今日猪苗代のあたりまで【尚哉】
・修辞の面白さ、作者のおおらかな行動範囲、ロードムービーならぬロード俳句の名作だと感じました。(一遅)
・水を張った田んぼが見えるようです。[苗代]の選択に脱帽です。(華松)

●生き延びし婆はタネ蒔く丘の上【すかんぽ】
・映像が大きく広がります。この10年過ごした婆の心が、生き延びしの言葉で引き出されてきます。背を丸めてタネを蒔く、婆の背景の空の色まで感じさせてくれる。深い、深い句だと思います。素晴らしい!(茘子)
・私の知人は亡くなられましたけれど、この方は助かって本当によかった。種蒔いて明るい未来を感じます涙が出そうないい句です(紅螺)

●東風ぬける湯島天神男坂【鬼禿】
・東風というと誰でも「東風吹かば…」の歌と道真、天神様が浮かぶと思いますが、そこに男坂をもってきたことで句がしまり、格調高くなったのではないでしょうか。音読した時のリズムも美しいと思います。(弥生)

●若鮎やすでにはらわたほろ苦き【虚視】
・「若さ」は全てがポジティブで肯定されるべきものであると描かれがちだけれど、そこにはやはり、現在と未来に対する憂いがある。そのことを思いおこしました。(兎子)
・いかにも鮎好きの人の句だなぁーと。(可不可)
●海底へ許せ許せと桃の花【茘子】
・帰らぬ人を助けられなかった自責の念。それでも何事も無かったかのように四季は巡り
春は来る。人間は無力である。(小文)

●水温み一週分の髭を剃る【可不可】
・無為自然の境地。漢詩の世界にも通じます。(尚哉)

●空青し川青し風青し鮎青し【矢太】
・青をたたみかけることで、爽やかな季節の到来を感じます。(玲滴)

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【今月の成績一覧】
トータルの天=茘子・54点
    代表句=水温む金魚よタンゴを踊ろうよ
トータルの地=虚視・48点
    代表句=すがた無き人行き交いて春浅し
トータルの人=可不可・45点
    代表句=若鮎の食み跡薄し岩の苔
トータルの次点=すかんぽ・39点
    代表句=朝東風をぐいぐい進むおさげ髪
  ◆秀句沢山! 皆さん、おめでとうございました。◆

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ところで先日、面白い記事を、某俳句雑誌で読みました。その句は、このブログ上では伏字ですが、漢字まじりの≪△△の△△の△△△の△≫という句です。つまり、一句中に「の」が三つ。あとは名詞のみで、形容詞も動詞も無いという一句。勉強になります、という紹介。
そこで申しあげますが、実は、私・孝多の今月の「東風」の句には「の」が四つです。はっきりと意識して創りました。
何か、汲むところ、ありましたでしょうか・・・。          (孝多)
 

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