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バルタンの呟き №94 [雑木林の四季]

「春!ですが・・・」

          映画館時  飯島敏宏

 春です! 一斉に、というよりも、先を争うように桜満開!という情報を各地が競って発信しています。待ちに待った緊急事態宣言が解除されて、まるで鬨の声を上げるように、各観光地が悲願の人寄せの為に発している開花情報なのです。強引とも見える緊急事態宣言解除に応えるように、そして、初夏並みと言われる気温の上昇と共に、サクラの名所ばかりか、各地の繁華街の人出も一気に増えて、新聞、テレビ、その他のメディアにその情景が映像化されて広がっています。さらに、「人類がコロナウイルスに打ち勝った証として」という決まり文句で胸を張り続ける菅総理の号砲一発、福島発の2021東京オリンピック・パラリンピック聖火リレーも、見切り発車(?)され、各地の桜だよりと交錯しながら、国内外に中継されているオリンピック・パラリンピック主催国平和ニッポンの春の情景です。世論調査では大方70パーセントもの国民が開催を危ぶむ中で・・・
その一方、対する新型コロナウイルスCovid19は、制圧されるどころか、さらに変身して伝染力を増し、すでに海外からニッポンに侵入して、第4波パンデミックを仕掛けています。
 海外からの観客は、既に望めなくなり、主要各国首脳の来場も、なんとなくあやふやな状況を見せ始め、肝心の競技大会の主戦級の海外プロ有力選手の中にも、拒否、あるいは辞退をする可能性も噂される状況です。まして、もしこのまま日本国内の感染状態が広がって行けば、観客制限どころか、無観客競技大会になりかねない情勢もうかがわれてきたような気がするのですが・・・
我が街の、桜満開の中央公園での話題も、コロナコロナです。ついに、この街からも明白な形でコロナ感染死者が出たことが露見して、この所、早朝ラジオ体操参加者が減少、震撼しているのです。
今朝、第一、第二と、ラジオ体操を終えて、さて、日々恒例の歩きに、という時でした・・・
「いっそ、この際思い切ってGo to!もオリンピックも中止したらどうなんですかねえ!」
最近顔を見せるようになった元教員という傘寿老が、周囲の常連に発した一言が、たちまち炎上してしまったのです。
「冗談でしょう!そんなことをしたら、この国は、破産しちまうよ!」
新顔の声を聞きとがめた古株の元証券会社の米寿老が、いきり立ちます。傘寿でも此処ではザラな歳なのです。
「?」
傘寿氏には、どうやらその脈絡が読めないようでした。
この街は、証券会社関連の大手不動産が分譲した住宅地ですから、50年に近い年月を経た今日では、超高齢の街であり、住民も、証券会社、銀行その他金融関係、商社OB主流の街なのです。
「すでに莫大な費用をかけて設備を整えた上に、もし、中止、つまり日本の事情でキャンセルでもしようものなら、あんた、損害賠償として絶大なキャンセル料をIOCに支払う事になるんですよ!」
「でも、今のまま、少数観客や、無観客で開催したら莫大な追加費用が掛かるでしょう?」
果敢にも、傘寿翁が反論を試みます。
「中止したら、その上に、天文学的損害が生じるのはお判りでしょう、あんた、無収入になるんですからね!膨大なテレビ放送料や広告収入が、ゼロになるわけですから比較にもなりませんよ!」
「オリンピックを当て込んでいた不動産業界、ホテル業界、観光業界、宣伝業界なんかの損失は東京都や首都圏ばかりではなく、全国的なものですからね・・・」
だんだん傘寿翁を囲む人数が増えて、マスクを吹き飛ばさんばかりの百家争鳴になってしまいました。
「それに加えて、選挙の事もあるしね・・・」
「選挙?」
とんでもない方に飛び火して、傘寿翁がきょとんとします。都議会議員選挙の事でしょう。
小池がとか、知事と対立してきたこの街を地盤とする保守系都議の名などが上がります。
「菅さんも、大変だ・・・ここへきて二階さんが・・・」
こちらは、さらに飛び火して国会議員選挙レベルの話です。近ごろでは、杖をつく人が増えて、階段を上る山道を避けるコースになってしまった「歩こうかい」に議論が持ち越されて、リベラル発言の傘寿翁は、公園に置き去りになってしまいました。
「それでいいんですよ。ありがとう」
しょんぼりしかかった彼の肩を叩いたのは、米寿の僕です。
「え?」
「誰も違う声をあげない状態は、危険だからです。あなたは、今、日本が、戦争の危機にさらされているとお思いになりませんか?」
「戦争?」
傘寿翁には、突然戦争などと言い出した僕の言葉が、突飛に響いたのでしょう。
「ある意味で、今のニッポンは、世界がうらやむほどに、平和ですが・・・なんだか、誰も声を上げようとしなくなっている気がするんですよ・・・あの戦争の時と同じように」
「あの戦争?」
「第二次世界大戦、大東亜戦争ですよ」
「はあ・・・?」
敗戦後76年、いまや、若い世代どころか傘寿翁にして、「あの戦争」と「あの敗戦」は、平和ムードの中で、他人事のように遠ざかってしまったのです。
「全国民、みんなが、見ざる聞かざる言わざるになってしまったから、ずるずるとあの戦争を始めてしまったのです。中庸を貫いている心算の僕も、この公園では、かくれ左翼と言われていますからね。でも、実はみんな耳を貸しているんです。あなたも、ぜひ、疑問がおありでしたら今日のように、声を挙げて下さい。ディベートが大切なんですよ、この街には・・・」
 北朝鮮対策には、大日本帝国を暴挙に追い込んだABCD包囲陣が、日韓米軍事同盟に日独伊三国同盟の脆さなどが重なって見える今日、この街の朝を目覚めさせるには・・・」
傘寿翁を急き立てて、遥かに遠ざかってゆく面々を追うのですが・・・僕とほぼ同年齢の半藤一利さんを偲びながらの拙い呟きですが、地道にでも続けてゆこうと思うのです。


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