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検証 公団居住60年 №76 [雑木林の四季]

ⅩⅢ 独立行政法人化して都市再生機構に改組

 
    国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

 4.公団住宅「改革」と公共住宅制度の破壊

 国土交通省は閣議決定にもとづく法案作成を急ぎ、2002年7月には、03年の法案提出、公団廃止を1年早め04年7月の都市再生機構設立の意向を固めた。都市公団は03年4月からの第7次家賃値上げを発表した。
 小泉構造改革が真っ先にねらったのが公団住宅制度と住宅金融公庫の廃止であり、わが国公共住宅政策の解体宣言であった。したがって、閣議決定にもとづく検討、新機構法案の作成をまつまでもなく、ただちに実施に移され、2002年度の住宅予算にあらわれた。04年の都市再生機構、05年の住宅金融支援機構の設立につづき、住宅政策体系の大転換を期する06年の住生活基本法の成立にむかう小泉路線の方向を見定めるうえで、02年当時の住宅予算、郡市公団の事業、地方自治体(東京都)の住宅行政の特徴をみておく必要が
ある。

 住宅予算の大幅削減
 2002年度の国の住宅予算(当初)を前年度対比でみる。住宅対策費(住宅金融公庫をのぞく)は国費9,278億円、10%減、事業費は1兆7,901億円、22%減と大きく削減している。うち公営住宅等は国費3,739億円、11%減、事業費8,312億円、12%減。とくに都市公団の予算減は際立ち、国費(出資金)は136億円、27%減、補助金・補給金は02年度からゼロ、事業(居住環境整備)費は5,064億円と25%も削られている。このうちの住宅整備計画の内訳をみると、その特徴がはっきりする。
 住宅整備費4,067億円のうち、公団賃貸住宅に8,500戸分、2,181億円、再開発関連住宅に2,500戸分、1,741億円をあてる。前年度にくらべると、賃貸住宅は4,200戸減、予算は1,808億円減、じつに45.3%の減である。再開発関連は2,500戸と変わらず、しかも予算は805億円増、85.9%もの増額である。1戸当たり額で新たな再開発関連には2・6倍もの予算計上である。施設整備は事業費が半減、予算も68・3%減となり、団地内施設の衰退がいっそう懸念された。
 公団事業予算が17.6%減のなかで、居住環境整備は25%減と大きく、都市整備は7.6%減にとどめたのにたいし、土地有効利用の35・1%増が目につく。
 ここで国の住宅対策費(国費)の推移をみておくと、橋本内閣が終わる1998年度は1兆6,714億円(歳出予算総額に占める比率は1・90%)、以降年々実額、比率ともに下落しつづけ、とくに小泉内閣2年目の2002年度9,799億円(1.17%)を境に急落して、最後の2006年度には7,179億円(0・9%)へと削減されている。ちなみに、住生活基本法が制定されて後の10年度は2,017億円(0.22%)、15年度1,527億円(0・15%)である021世紀の15年間に国の住宅対策費は、なんと10分の1以下への大激減が現実である。公共住宅政策は撤退にもひとしい。

 公団事業の変質と「都市再生」への暴走
 郡市公団「改革」は、「特殊法人等整理合理化計画」の閣議決定を先どりして進められ、2003年度予算概算要求にすでに具体的な姿をあらわした。2、000年3月に策定したばかりの「中長期業務運営方針」も01年に大幅改定するとともに、「ストック再生・活用計画」(2001~05年度)を作成した。改定方針は、公団業務の基本に「構造改革の重要課題の一つである都市再生に貢献」を打ちだし、業務内容として、①「市街地の整備改善」、②「賃貸住宅の供給および管理」をあげた。ストック再生・活用計画では5年間に4万戸着手、3万戸の建て替えのほか、新たに「トータルリニューアル」をかかげた。棟単位に全世帯の明け渡しをもとめて大規模改修をする検討にはいったが、結果として実現をみることはなかった。
 「都市再生」は小泉構造改革の目玉の一つである。小泉内閣は発足するとすぐ、01年用に首相を本部長とする都市再生本部を設置し、牧野徹が都市公団総裁をやめ、首相補佐官として担当した。小泉政権のもとで23の「21世紀型都市再生プロジェクト」が指定された。環状道路をはりめぐらし、空港をひろげ、都市部に超高層ビルをどんどん建設していこうという計画である。このうち第3次決定(01年12月)は、「公共賃貸住宅約300万戸について今後10年間の建替え、改修、用途廃止等の活用計画」を2002年度中に策定するよう求めた。
 従来型のばらまき型公共事業には国民の批判が高まっていた。「効率化・重点化」と称して形をかえた大都市集中の公共事業であり、ねらいは局地的なバブルの再現であった。02年に都市再生特別措置法を成立させ、都市再開発法等を改正した。この法律で「都市再生特別地区」「緊急整備地域」に指定されると、日照権や容積率などほとんどの規制がはずされ、都市開発が民間企業に丸投げされ、住民を追い出しやすくする仕組みがつくられた。都市公団が実施する市街地再開発事業も、一部は「緊急整備地域」の指定をうけ、都市再生の実現にふみだしていた。
 東京では超高層ビルの建設ラッシュとなり、早くもオフィス「バブル」の崩壊がいわれていた。ヒートアイランド現象、学校も公共施設も近くにないマンション建設など住宅環境の破壊は深刻になっていた。住民にとってコミュニティがこわされ、再開発事業から追い出され、あとに「再生」される地域が人間の住み働く生活空間になるのか。

 地方自治体の住宅行政の後退
 住宅「問題」は一般的に、利潤を求めて資本が集中する大都市に固有の問題であり、住宅確保を住民各自の「自助努力」に負わせるのは欺瞞もはなはだしく、住民の身近な守り手であるべき地方自治体の役割と責任は大きい。2001年にはいっての東京都の住宅行政の現状をみておく。
 東京都は01年5月の「住宅政策ビッグバーン」答申にもとづく形で「東京都住宅マスタープラン」(第3次)を作成した。時代状況の変化を理由に、市場の活用(住宅供給は民間が基本)、ストック活用(新規建設をやめ、既存住宅の建て替え・活用に重点)、既成制度の見直し(都営住宅制度の抜本改革)を柱にした政策転換を提言し、市場原理万能主義と行政の役割縮小論をとなえた。
 東京の持ち家率は41.5%、借家が全住宅数の55.6%をしめる(全国平均60.5%、38.1%)。居住面積は狭く、最低居住水準に満たない世帯は、民営借主では19.3%、公的借家で17.4%あり、住居費負担率も高く(民間借家で22..8%)、いずれの点でも全国最悪である(1998年住宅・土地統計調査)。都営仕宅への応募倍率に都民の切実な住宅要求があらわれている。空き家募集で10倍以上、新築では30倍以上、50倍、200倍の例もみられる。石原慎太郎郁政が新規建設ゼロをきめた2000年以降、この倍率は上がりつづけている。これにたいし東京都は、都営住宅の絶対量の不足はそのままに、「不公平感」をなくす名目で収入基準を引き下げ、入居を期限つきにするなど、重大な制叱改悪にのりだした。
 都営住宅を民設・民営方式に移行していく。都営住宅とその敷地(1,900ha)を有民間市場に放出する。期限つき入居制度の導入、入居にあたり課税所得以外こ資産調査、使用承継制度の見直しなど、都営住宅制度の改悪をはかり、公営住宅法のさらなる改悪をうながした。行政組織の上でも、02年度から都営住宅の管理業務を住宅供給公社に全面的に委託を拡大し、建設・管理に「経営的視点の強化等が可能となる」特別会計を導入するはか、住宅局の再編をすすめた(04年4月に住宅局を廃止、都市整備局に再編した)。

『検証 公団居住60年』 東信堂


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