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ケルトの妖精 №47 [文芸美術の森]

 いたずら妖精パック

       妖精美術館館長  井村君江

◆ 『夏の夜の夢』の物語のなかで、狂言回しの役で活躍するのが妖精パックである。パックは妖精王オーベロンの従者で、弓矢にたけているとされるダッタン人が射た矢よりも速く飛ぶことができることになっている。四十分で地球に帯を架ける超能力の持ち主でもある。そのパックが摘んできた惚れ草パンジー(ラブ・イン・アイドルネス)のつけまちがいから、夏の夜のテンヤワンヤの騒動が起きる。
 オーベロンはパックのことを「ロビン・グッドフェロー」と呼びかけ、妖精たちからは、「ホプゴブリンさまとか、かわいいパックとかと呼んでくれる人には、仕事をきちんとしてやり、素敵な運も授けてあげる。あなたは、そのパックなんでしょう」と呼びかけられるパックは、ロビン・グッドフェローやホプゴブリンの集約された姿だといえる。ホプゴブリンは、だいたいが気立てがよく人間の手助けをよろこんでしてくれる。しかし悪ふざけも大好きである。

「夜には陽気にさまよい歩き
 オーベロン王にも、ふざけたり
 雌の子馬に化けてみせ
 豆を食べすぎ、太った雄馬をだましてみせる
 ときには蒸し焼きリンゴに姿を変えて
 おしゃべりばあさんの盃に潜む
 ばあさんが飲もうとすれば飛びあがり
 しわくちゃ喉が酒びたし
 まじめ気取りの婆さんが
 悲しい話をはじめる前に
 椅子に化けたぼくに座ろうとすれば
 ひょいといなくなって尻もちどすん
 みんなは腹をかかえて、大笑い」

 と、パックは自慢話をしている。
 パックは民間伝承からきており、悪ふざけや変身ぶりを発揮する。「ビールの酵母を泡だたなくしたり」「旅人の夜道を迷わせたり」の悪ふざけをし、すこしこわい面もある。
 イギリスのケルト系の地方に見られる妖精、プツカやプーカ、ピタシーの特性と通じている。
 シェイクスピアは、これらの妖精の性質や人間に親しいプーカの性質を混ぜたりして、『夏の夜の夢』のなかで独自のパックをつくりあげたといえる。
 坪内追適は、茶目っけたっぷりのパック(「化け茶目」と呼んでいる)のことをさして、日本でいちばん似ているのは、河童だといっている。

『ケルトの妖精』 あんず堂


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