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日めくり汀女俳句 №78 [ことだま五七五]

八月十六日~八月十八日

    句  中村汀女・文  中村一枝

八月十六日
踊唄やむとき塘は藻の匂ふ
        『汀女句集』 踊=秋

 お盆になると、江津糖は広場になったという。「寄進奉る」と墨で書いた行灯を男の子のいる家庭から一つずつ出した。普段糖は真っ暗だが、行灯の灯がともされるとばっと明るくなる。
 女の子は十五、十六歳。
 「あのや おハマさんはご器量だとてさぞや親ごはごほよだろ・・・
 三つ歩いて手をたたくという素朴な踊り。盆踊り歌に人の名が歌いこまれた。
 真っ暗な糖の上に並んだ行灯の火が湖面に映え、時々魚のはねる音がした。

八月十七日
月下美人灯影は闇を深うする
        『薔薇粧ふ』 月下美人=夏

 本棚でリリアン・ヘルマン著「ジュリア」を見つけた。汀女が好きだった本である。
 リリアンは劇作家だが、「ジュリア」は七つの短編から成る小説の一編。少女時代の親友ジュリアが恵まれた境遇を投げ捨て、反ナチスの運動にのめり込み殺されるまで、リリアンは「マルタの鷹」で知られるハードボイルドの始祖、ダシル・ハメットとずっと暮らしていた。
 汀女は映画も見、本も読み、ジュリアにのめり込んでいた。女が女を愛する、その妖しくも切ない情念を汀女は理解できる人だったと思ひつつ。

八月十八日
おいて来し子ほどに遠き蝉のあり
           『春雪』 蝉=夏

 最近の若いお父さん達の家族への奉仕ぶりは、涙ぐましきものがある。
 ソフトクリーム四つを両手にかけ込んできた父親。妻と子に一つずつ手渡し、残る一つを口に。垂れ下がる寸前のクリームをなめてほっとしていた。車の運転はお父さん。渋滞をかいくぐって避暑地の妻子の元へ。着くやいなや虫取り、買い物、庭仕事、喜々とこなしている。
 「よくやるねえ」。かつての若い父親、いまや爺様たちの歎息と羨望の入り混じった目。活力と可能性にあふれていた違い日。とてもたまらんと思いつつどこか淋しげである。

『日めくり汀女俳句』 邑書林


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