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日めくり汀女俳句 №76 [ことだま五七五]

八月十日~八月十二日

     俳句  中村汀女・文  中村一枝

八月十日
夏草の花や一途にかかはれば
          『汀女句集』 夏草=夏

 汀女の俳誌「風花」の創刊は昭和二十二年 の四月だった。
 創刊号には武者小路実篤、本多顕彰、河盛好戒、室生犀星と、そうそうたる顔ぶれの寄稿が並んだ。
 段取りをつけ、編集を担当したのが富本一枝だった。富本一枝との女の友情というか、あるいはもう少し濃密なものがあった気もするが、その二人三脚で「風花」の基礎はできた。二号には佐藤春夫、渡辺一夫さらに虚子も五句を送っている。八号には上林暁が江津湖のボートレースのことを細かに書いた。個人誌として、これだけの人材を集め得た汀女の器量に、雷本一枝の才覚を思う。

八月十一日
ガソリンと街に描く灯や夜半の夏
          『春雪』 夏の夜=夏

 掃除機を買った。これがややこしい。何だかんだと新機能がついている。老眼鏡で説明書と首っ引きだ。簡単な昔の機種がなつかしかった。山の家では雷で電話器がだめに。新しいのが、これまたさまざまな仕掛けがついていて、うっかり押すと何が出てくるか分からないびっくり箱。
 年々日本の電化製品、機能はよくなる一方なのに、使用法はどんどん複雑になってきている。これを使いこなせないと二十一世紀には生き残れないなら、まあ仕方ないか。老兵は消え去るのみ、という言葉が妙に現実的に聞こえてくる。

八月十二日
流灯の焦ぐるばかりに面照らす

          『春暁』 流灯=秋

  月遅れのお盆はまた民族大移動の季節、東京の町も商店もがらがらになる。故郷というものを持たない私には、地方独特の思い込みというか、入れこみというのがいまだに理解できないところがある。私の父尾崎士郎は愛知県吉良町の出身。実家が投落し、石もて追われる心境で兄弟二人田舎を出た。
 伯父は以後も一度も吉良へ帰らず、父は私が中学生の時三十年ぶりに故郷の土を踏んだ。小学校の同級生である白髪のおじさんたちが「シロさん、シロさん」となつかしそうに呼ぶ姿を、不思議なものに眺めていた。

『日めくり汀女俳句』 邑書院




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