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往きは良い良い、帰りは……物語 №91 [文芸美術の森]

こふみ会通信 №91
(コロナ禍による在宅句会 その6)
「初空」「雪女」「煮凝り「水仙」

        俳句・こふみ会同人 コピーライター  多比羅 孝

【令和3年1月の句会のまとめ】
当番幹事のお二人(秋元虚視氏と大取下戸氏)からお知らせが届きました。内容は次のとおりでした。
★在宅句会。兼題=「初空」「雪女」「煮凝り」「水仙」
★投句締切=1月11日。(幹事両名にお送りください。)

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通知によって作成・投句された作品=72句(18名)
≪1月こふみ会の全句≫

【初空】
・初空やただそれだけに手を合わせ<小文>  
・初空の常なる青の新しく<舞蹴>    
・帰るな。という母に送る「初空」<鬼禿>   
・初空を背にひっそりと六地蔵<玲滴>  
・初空や白大島で人を待つ<紅螺>    
・初空や地球は悪しき玉手箱<可不可>    
・初空に 深呼吸ひとつ また一年<一遅>    
・初空や恵方は帰れぬ故郷か<尚哉>  
・光ごと吸い込んでみる初御空<すかんぽ>     
・初空よ 今年こそはと 祈りこめ<兎子>  
・初空や額に入れたき雲ひとつ<虚視>   
・初空や鳶悠揚と山の端に<弥生>   
・初空や 仰ぎて踏み出す 一歩かな<孝多>  
・初空は畏れるほどに青々し<華松>     
・初空の光のどけき庭掃除<珍椿>     
・初空や野口さんが飛んでいる<下戸>   
・地球にはまだ初空の美しく<矢太>      
・初空の キャンバスに描く 我が煩悩<茘子>   

【雪女】
・湯けむりに耳たぶ染めし雪女<小文>   
・月光を浴びて影なし雪女<舞蹴>    
・雪女郎 空のリフトに一人づつ<鬼禿>   
・情念に溶けて消ゆるか雪女<玲滴>    
・昼酒で酔わせてみたい雪女<紅螺>   
・恋しきは恨めしきなり雪女郎<可不可>   
・ゆうべ来た 雪女黙って 朝飯を食う<一遅>   
・雪女単衣の下は燃えてをり<尚哉>   
・雪をんな真白き闇に現れし<すかんぽ>    
・車中泊 放してください 雪女<兎子>   
・つめたいねそうなのわたし雪女<虚視>   
・頬よせくる白き幻覚雪女郎<弥生>   
・出るのです ほらそのうしろ 雪女<孝多>    
・吹雪でもステイホームの雪女<華松>    
・雪女空みていそいそ薄化粧<珍椿>    
・雪女サイフォンの火に身を投げる<下戸>   
・雪女コビッドと改名したるかや<矢太>     
・雪女 怒りし後の 自衛隊<荔子>    

【煮凝り】
・煮凝りや琥珀に映ゆる父の影<小文>   
・煮凝りや妻にひとつの秘密あり<舞蹴> 
・煮凝りに似てくる人格わが女房<鬼禿>   
・煮凝りや住み暮らすなり鍋一つ<玲滴>   
・煮凝りや神々しいよな皺の数<紅螺>    
・煮凝りの如き昨夜(ゆふべ)の言葉かな<可不可>   
・煮凝りが ゆっくりゆるむ 朝の膳<一遅>  
・煮凝りをつつけば足りる朝餉かな<尚哉>   
・煮凝りや口中母を忘れざる<すかんぽ>    
・苦しみや 悲しみ封じて 煮凝りに<兎子>  
・煮凝りやゆるゆる国も崩れ行き<虚視>   
・玄海の海とじ込めて煮凝りぬ<弥生>   
・煮凝りや 小皿に分けて 友静か<孝多>     
・ふるふると揺れるが嬉し煮凝りは<華松>    
・夜も更けて煮こごり肴に手酌酒<珍椿>    
・煮凝りや弱火でとける夫婦仲<下戸>     
・煮凝りやあの日あの事あのままに<矢太>     
・煮凝りの ゆるりと溶けて 江戸の粋<荔子>    

【水仙】
・水仙の匂ひ零るるにじり口<小文>   
・倒れるも立つも真っ直ぐ水仙花<舞蹴> 
・覚めやらぬ夢の向こうか水仙香<鬼禿>      
・陽ざし入る丸障子一輪の黄水仙<玲滴>   
・瞑想の息に芳し黄水仙<紅螺>    
・水仙の床の間にあり安き宿<可不可>   
・水仙の 白黄に緑 曇り空<一遅>  
・水仙の唇妖しき宵まだき<尚哉>   
・水仙の早も一輪二輪かな<すかんぽ>    
・水仙よ 命を凍土に 隠し持ち<兎子>    
・水仙の香刀身となり闇を切る<虚視>     
・筆談の文字乱れゆく水仙花<弥生>     
・水仙群 なびかせ渡る 海の風<孝多>     
・水仙は今朝もきりりとそっぽ向き<華松>    
・ベランダに咲く水仙ひっそりと<珍椿> 
・水仙やわが蟄居にも侘びと寂び<下戸>     
・水仙や先に逝くひとみな美し<矢太>       
・水仙の 香に誘われて 回り道<荔子≫ 
◆残念な句が出ました。俳句の世界では黄水仙は春の季語なのです。水仙は冬。◆

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【天句鑑賞】
●水仙の匂ひ零るるにじり口  小文
鑑賞短文=席入りに合わせて開花させたご亭主の手並みの冴え、心配りを察する客人、茶席が恋しくなりました。(華松)
鑑賞短文=新年の茶会、おめでたい空気そのままに景が鮮やかです。(紅螺)

●煮凝りやゆるゆる国も崩れ行き  虚視
鑑賞短文=煮凝りと国。このありえへん組み合わせにまず驚く。「ゆるゆる」という擬音が妙におかしな臨場感を醸し出し、一層身につまされる。もうこんな国こりごりだ・・・(舞蹴)

●雪女郎 空のリフトに 一人づつ  鬼禿 
鑑賞短文=・・・なんという想像力だろう。幻視の世界に引き込むチカラ、絶大です。(尚哉)
鑑賞短文=雪女は集団発生するらしい。シュールな世界に引き込まれました。(虚視)

●水仙群 なびかせ渡る 海の風  孝多
鑑賞短文=水仙の原産は地中海とのこと。以前アグリジェンドから海岸にかけて水仙の群生を見ました。正にこの句の通りの風景。思い出させてくれて、ありがとう。(鬼禿)

●帰るな。という母に送る「初空」  鬼禿
鑑賞短文=読点や「」が俳句でタブーかどうか知りませんが、実に効果的で、母子互いの情愛が溢れて見事です。新しい短詩系文学のトレンドを感じます。(一遅)
鑑賞短文=母上様の悲壮な一言です。息子さんにはぜひ会いたい。しかし、コロナ運び人になってほしくない。そうした母上様の心境が痛いほどよく分かる息子は、いとせめて、こちらの元旦のよく晴れためでたい青空を古里へ送り届けたいと思うのだ。良い句をお示しいただいて有難うございました。(孝多)

●初空の常なる青の新しく  舞蹴
鑑賞短文=「コロナ禍の時代でも空なる自然は普遍的である事への敬意と希望を抱く作者の気持ちが伝わります。」(小文)

●月光を浴びて影なし雪女  舞蹴
鑑賞短文=月光に浮かぶ美しい雪女のビジュアル。ポスターにしたいような印象的な句が出来上がった。「影なし」のワードがナイフのように突き刺さる。(下戸)
鑑賞短文=そうか、雪女に影はなかったのか!という発見がありました。(可不可)

●倒れるも立つも真っ直ぐ水仙花  舞蹴
鑑賞短文=一切の作為のない、見たまま感じたままのストレートな句がすきです。また凛とした水仙の美しさの理由の一つにこれがあったのかと思い知らされました。(弥生)

●玄海の海とじ込めて煮凝りぬ  弥生
鑑賞短文=昔住んでいた博多の街は魚がおいしかったことを思い出しました。スケールの大きい句だと思います(玲滴)

●光ごと吸い込んでみる初御空  すかんぽ
鑑賞短文=元旦の朝、光ごと深呼吸をするという清々しい句です。(珍椿)

●初空や地球は悪しき玉手箱  可不可
鑑賞短文=今ここにある地獄を。大きな次元哲学で詠嘆した。玉手箱の比喩が悲しい。(矢太)

●水仙や先に逝くひとみな美し  矢太
鑑賞短文=水仙のイメージは寂しい。教会の墓地に咲く水仙のイメージ。乙女のような純粋な姿と、心に残る濃厚な香、先に逝ってしまう人の姿は、美しくそしていつまでも心に残る。あ、やられましたという気持ちです。(荔子)

●初空や額に入れたき雲ひとつ  虚視
鑑賞短文=元旦ならではの清々しく寿ぎの気分を、「額に入れたき雲」で見事に詠まれています。(すかんぽ)

●初空やただそれだけに手を合わせ 小文
鑑賞短文=虚しさを噛み締めてながらの、切なる祈りを感じました。(兎子)

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【令和3年1月句会の成績】
●選句順位
 天 舞蹴  月光を浴びて影なし雪女     28点  
 地 鬼禿  雪女郎 空のリフトに一人づつ   24点
 人 虚視  初空や額に入れたき雲ひとつ    21点
 次点 弥生  玄海の海とじ込めて煮凝りぬ    18点  

●トータルの得点順位
 天 舞蹴 68点
 地 虚視 55点
 人 鬼禿 39点
 次点 小文 30点    

今回も全員参加の≪コロナ対策句会≫となりました。     

【追伸】
先人の作と、よく似た句が、今月もいくつかありました。しかし、偶然の一致と見て、そのまま、普通に収録され、得点もされました。念のため、申し添えます。

                                                              以上

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