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バルタンの呟き №90 [雑木林の四季]

「続・滅でなく誕を!」

              映画監督  飯島敏宏

 ♫カムカム、エーブリ、バーディ、ハウ、デュ、ユー、ドゥー、アンド、ハウ、アー、ユー、
ウオン、テユー、ハヴ、サム、キャンディー、ワン、アンド、トゥー、アンド、スリー、フォー、ファイヴ、レッツ、オール、シング、ア、ハッピー、ソング、ティン、タララッタッター!
 戦後、わが国唯一のラジオ放送だったNHK:日本放送局から、まだ米軍の空襲で焼け野原だった東京の、半地下の防空壕舎や焼けトタン(亜鉛メッキの薄鉄板)屋根のバラック(仮小屋)の家々や、辛うじてポツリポツリと焼け残った家々の町々に、五球スーパーラジオや、電柱に括りつけられたトランペット型スピーカ―から流れ出ていた、つい数か月前まで(そんなに経っていなかったかな?)敵性語だった英語の歌です。
 このカタカナ英語を一読して、「ハハン」と思い当たる方は、もう、現在、新型コロナ感染対策で、菅内閣総理大臣や、都知事、県知事が、しきりに重症化の懼れありと、再度の緊急事態宣言にも、昨2020年のGo to!ですっかりコロナ慣れしてしまった若い人たちに向けて庇護のための自覚、保護をお願いと繰り返している高齢者の基準をとっくに超えた、コロナ感染以外の「来るべき日」を、充分自覚している超高齢者です。
 何を隠そうこの僕も、なにも隠すほどの事じゃないだろう、とおっしゃるかもしれませんが、そして、いま、要請にこたえて、厳然とStay home !に準じて我が家に籠り続けている僕たち二人の、三度三度の食時(お家ごはん?)の献立に頭を悩ませているママ(カミさんの事です)も、充分その年齢に達してしまったのです。コロナ感染防止のために、せっかく近隣に暮らす子供たち孫たちも訪れることがない、なかば老々介護を過ごしている身です。
 その僕たちの愛する紙の新聞や月刊誌、週刊誌も、開いて一番に目につく見出しは、政治面、社会面、或いはついに全面にもわたる広告欄に躍る大見出しです。まあ葬祭とか、墓地にかかわるものは別として、ついにエッセイ集や小説までが、ひところ流行った断捨離どころではなく一斉に、死の準備、自身の死後の遺族の為の準備、一色じゃありませんか。老齢に達した団塊の世代が、それらの購買層の中心に置かれている現在の日本の人口構成故と、紙に書かれた文字文化に興味を持つ最後の世代という事で、広告のターゲットに置かれているせいからでしょう。
 先日の朝、もうここ十数年以上続くわが街の中央公園で行われる毎朝のラジオ体操会で、僕とほぼ同じ年齢の仲間に、そう呟いてみたところ、
「えっ? あんた、まだやってないの?」
「え? 何を? ま、まだ何も・・」
「いやだな、あれはね、そろそろ後期高齢者層の主流を占めることになる、戦後ベビーブーム生まれの団塊の世代狙いの見出し広告ですよ!我々世代は、当然もうとっくに済ませている筈ですからね・・・」
「超高齢のあなたですから、 済ませていらっしゃると思った」
いつのまにか、僕の周りは、過密の2メートル圏内近くのマスクで囲まれてしまいました。
「高齢になりますと、次第に脳内の海馬という部分が壊死し始めて、いままで表面に出ていなかった古い記憶が、蘇って来るんです。記憶が良いのじゃなくて、壊死した脳細胞が剥離して古い記憶部分が表面に露呈してくる、というか・・・」
 これは、医療用マスクをした、もと大学医学部教授の宣告です。
「と、仰言ると?つまり・・僕は」
「加齢性脳委縮症が進んでいる、という事です。ちかごろ矢鱈に眠くなりませんか?」
(もしや、僕が、いわゆる認知症という事?)
「だいぶ前から、痴呆という言葉を避けて、認知機能の衰えを、認知症と言い換えているのですがね」
(やはり・・・)
「痴呆が進んで来る前に、女房や子供たちに迷惑をかけないように、身辺のことを片づけておこうと、キャンペーンを張っているんですよ。日本の人口分布ピラミッドで一番高い年齢層である団塊の世代が、紙の雑誌や本を買うメインターゲットですからね」
 割り込んできたのは、解説好きな、もと経済記者です。
「あなたのいらしたTBSテレビも、視聴者のメインターゲットを、F2、F3、つまり20代30代の女性に絞るって話、ご存じありませんか?」
 そう言われてみれば、僕はすでに、定年後25近いという事になります。
 ちなみに、最近とみに気になる見出しを列挙すると、
 佐藤愛子(気がつけば終着駅)
 下重暁子(明日死んでもいいための44のレッスン)
 その他、曽野綾子、伊集院静、五木寛之・・・なんと言っても、一番が、内館牧子「終わった人」「どうせ死ぬんだから」「今度生まれたら」と、連発銃のように発刊されて、本屋さんに平積みです。 
 瀬戸内寂聴尼などは、もう、この世ではなく、あちらへ行ってからの境地で新聞連載中ですし、虎の皮(古い比喩ですが)ではありませんが、樹木希林さんなどは、あちらからの出版?です。
 が、家に帰りついて、僕、バルタンは、
「パパ(僕です)! 2020年に作った梅酒、すっごく美味しい!おじいちゃんのより、チヨウヤの梅酒にも負けないわよ!たまには、朝酒ぐらいやってみたら?」
 意気揚々とママが差し出した梅酒を,ぐっと一息にしてむせかえりながら、決心したのです。
「滅でなく、誕!始めるのは、今だ!」
 戦時少国民だった僕と、同年代の向田邦子さんが、再版された随筆集で、「小説と断れば、奔放なことがいくらでも書ける。私じゃない。フィクションだ、と思えばいい」と小説という分野に初めて挑んだ時の日記に記したこと、
 あの、米軍B29による「東京大空襲」を経験した半藤一利さんもあちらに逝かれたことをバネにして、こうして生きている今こそ、僕、バルタンは、乗り掛かった舟で、小説の分野に挑戦して行くのだ!と、決意したのです。
「あまり思い詰めないでちょうだいね!パパはA型だから・・・」
 血液型Bのママは、ブレーキを踏みます。
 菅総理大臣が、バイデン米国新大統領に、「東洋初の首長として直接」電話で読み上げたらしい「自由で開かれたインド太平洋」実現のリーダーという語句で、僕の海馬脳が連想した、あの愚かしい欲望と幻想の「大東亜戦争」で築こうとしたものではなく、小説という分野で、本当の平和を「大東亜共栄圏」に築くために、あの戦争の最後の語り部世代としてのメッセージを、コロナ後の、これからの世代に、娯楽作家としてのメチエを刃(やいば)にして切り拓いて行こう!と、誓ったのです。
 曲亭馬琴は、老いて目が見えなくなっても、娘に筆を持たせ口述で、「南総里見八犬伝」を書きあげたといいます。
 僕バルタンは、未だわずかに88歳、雀だって、百歳まで踊り続けるのですから・・・


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