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検証 公団居住60年 №72 [雑木林の四季]

第4章 小泉「構造改革」と公団住宅民営化の道

   国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

 公団改組の変遷、公団住宅の危機、居住者の居住不安の火の手はいつも、1981年の第2臨調にはじまる行革審や住宅審、規制改革会議等の答申、提言から上がった。その内容は財界の要求そのものであった。国民が政治の構造的な腐敗汚職に反発し、期待をよせた「政治改革」の矛先は、逆に国民生活に向けられ、「行政改革」の名で公共部門が縮小されていった。
 前章までは、中曽根政権が「行革」「民活」を旗印に、公団住宅にたいしては家賃の定期的値上げ、市場家賃化を方向づけ、地価バブルに便乗して建て替えに追い立ててきた経緯をのべ、そのもとでの団地住民の生活と闘いに言及した。中曽根路線は行きづまりをみせ、政局は混迷して、ついに1993年に自民党一党支配は終わりを告げ、非自民党内闇が出現した。しかし連立基盤の政権も活路を行政改革にもとめ、自民党が久しぶりに首相をとりもどした橋本政権は「火だるま行革」をうちだし、公団住宅をやり玉にあげた。橋本内閣は98年参院選で大敗し退陣をよぎなくされたが、住都公団廃止によって公団住宅の民営化と定期借家制導入に道を開いた。
 21世紀の幕開け、2001年の自民党総裁選挙に立候補し、「自民党をぶっ壊す」を叫んで人気をあつめた小泉純一郎が総裁につき、4月26日に小泉内閣(自民・公明・保守3党連立)が発足した。小泉首相が真っ先にかかげたのは「聖域なき構造改革」であり、ぶっ壊そうとしたのは、国民生活をまだそれなりに守ってきた公共部門、さまざまな規制、政策体系であった。住宅政策も例外ではなく、これまで執拗に準備されてきた住宅政策体系の大転換が本格化しはじめた。新自由主義「改革」への全面展開である。
 戦後の住宅政策における最大の転換点は、住宅建設計画法の廃止、住生活基本法の制定であり、公団住宅にとっての画期は、それに先だつ公団制度から独立行政法人(独法)への移行である。小泉内閣は、早くもその年の12月に都市基盤整備公団廃止の方針をきめ、03年6月には独立行政法人都市再生機構法を成立させた(機構設立は04年7月1日)。公団住宅「改革」への段取りをつけると、大転換への動きはいっきに強まり、公共住宅政策の3
本柱すべての除去にとりかかり、05年2月には住宅関連3法案を閣議決定した。3本柱を骨抜きにしたあと、住宅政策全体の枠組みを支えてきた住宅建設計画法を廃止し、その更地のうえに組み立てたのが、06年6月1日成立の住生活基本法である。住宅政策の基本理念と国民居住にたいする国の責任のあり方をすっかり転換し、住宅政策における小泉構造改革は、いちおうの仕上げをみた。
 ここで「公団住宅」の呼び名について断っておきたい。公団住宅はもともと正式名称ではなく、公団制度廃止のあとでは、都市再生機構の英文名称アーバン・ルネッサンス・エイジェンシーの頭文字をとって「UR賃貸住宅」とか「UR住宅」とよばれている。本書では、歴史的にも広く親しまれ普通名詞に近い呼び名として、また公共住宅として守っていきたいという思いもこめて、ひきつづき公団住宅と呼ぶことにする。
 公団住宅にたいする小泉路線は、その後、06年9月に発足した安倍晋三内閣にひきつがれ、公団住宅は「規制改革推進のための3か年計画」の名において売却・削減、民営化の道を強いられることになる。この「計画」の大筋は、09年9月に政権交代した民主党内閣になって、むしろ積極的に推進されたが頓挫し、いま第2次後の安倍・自公内閣のもとで新たな局面をみせている。
 ここでは、とくに都市公団を都市機構に改組する時点での財務状況とバランスシートの組み替え操作に注目した。改組を機に、都市再開発、土地事業によって財務構造を悪化させてきた宿病を、公団で唯一安定的に純利益をあげている賃貸住宅部門に移し替え、賃貸住宅事業のさらなる増益をはかって財務「健全化」に充てようとした魂胆がみえる。改組を機にというより、高家賃化のためのバランスシート組み替えが、改組の重要な目的の一つではなかったのか。あわせてこの時点での財務状況を眺めてみることで、政府が公団住宅経営を借金漬けにし、家賃収入から5割以上もの利息を取り立てている実態を明らかにしておく(賃貸住宅勘定2003年度決算:家賃収入5,399億円、支払利息2,956億円)。
 歴代の公団、現在の都市機構の財務構造をゆがめ、不健全にしている原因に、公団・機構の無策、失策はもちろん数多くあろうが、その主要な根源は、「改革」を叫びつづけてきた内閣、政府にある。機構財務の異常な構造にたいする団地住民の指摘にたいしては、向き合おうとしない。この問題にメスをいれ、真の改革をとげることで、公団住宅に将来展望が開ける可能性も確信できる。

『検証 公団居住60年』 東信堂


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