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医史跡を巡る旅 №80 [雑木林の四季]

年の始めの 試しとて

           保健衛生監視員  小川 優

終わりなき疫 哀しみよ
例年になく、静かな新年をお迎えのことと存じます。

昨年後半は江戸の疫病を史跡で辿り、同時に現在進行形の疫病についての情報を、私情を交えて提供させていただきました。ただでさえ気が滅入る情報ばかりの中で、さらに暗い話題ばかりとなり、明るいお話はお伝え出来ず、申し訳ない思いでいっぱいです。
結局、懸念していた通り、最悪の予想に近い形で、年が明けてしまいました。

このような中ですが、せっかくの新年初めての記事ですから、少しでもメインは明るい内容にしたいと思います。

疫病に抗う手立てを持たなかった江戸時代、庶民は大切な人を守るために様々な手を考えます。特に疫病に弱かったのは、子供でした。江戸時代の平均寿命は30歳代半ばといわれますが、意外と「長屋のご隠居」に代表されるような高齢者も多くみられます。ではなぜ統計的に平均寿命が短かったのか。ひとえに乳幼児の死亡率が高かったためと考えられます。乳幼児の死亡率を左右するのは、衛生や栄養、教育状況や、母子保健サービスの充実度、治安・貧困の度合いなどです。現在(2018年)の5歳未満児死亡率(出生1,000人あたりの死亡数)中央値を見ると、日本は2ですが、ソマリア122、ナイジェリア120、チャド119など、アフリカ諸国の状況は深刻です。ちなみに年間1,000人あたりの死亡者数では、インド882人、ナイジェリア866人、パキスタン409人となり、上位陣の顔触れが変わるという統計のマジックが発生します。

あだしごとはさておき。
今も昔も子供思う親心は変わらず、我が子が病に罹らないように、また罹ったとしても軽く済むように祈ります。子供の身近なものが願掛けの対象となり、病除けの玩具が生まれ、受け継がれていきます。
今回は子供たちを近くで見守った、病除けの玩具をご紹介します。

「疱瘡絵 為朝と疱瘡神」

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「疱瘡絵 為朝と疱瘡神」 ~一勇斎国芳 複製

以前もご紹介した、江戸時代の絵師一勇斎国芳の「為朝と疱瘡神」です。源為朝に向かって前列手前二人が疱瘡神であることはお話ししましたが、奥の兎と後列の面々は、為朝同様に疱瘡除けの立役者であり、疫病除けの玩具の題材としても用いられました。

「達磨 羽前山形と仙台」

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「達磨 羽前山形と仙台」
まず手前の達磨さん。
達磨大師の座禅の姿を模ったものですが、赤色の衣から疱瘡除けに効き、倒れても起き上がることから、病床からの回復をイメージして、病児の枕元に置かれました。

「達磨 各地の姫達磨」

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「達磨 各地の姫達磨」
ここでの達磨はよく知られる大願成就によって目を入れるタイプのものとはデザインが異なっています。また土人形もありますが、張子のものが多いのも特徴です。張子は型に紙を貼り付けて形作る技法で、中空で軽いのが特徴。病気が「軽く」すむことに掛けているからです。

「赤みみずく」

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「赤みみずく」 ~江戸玩具・川越張子
その奥が、みみずく。
ミミズクの特徴は大きな目と、耳。天然痘、疱瘡の後遺症で多かったのが失明です。独眼竜正宗の通り名で有名な伊達政宗が片目を失明したのも、幼少時の疱瘡が原因だといわれています。一方でミミズクにしては誇張された耳ですが、前列奥の兎にあやかったのではないかといわれます。飛び跳ねて元気の象徴でもあり、その血肉を薬として用いた素性もあるといわれます。また仏のご加護を祈って、胸に宝珠を描いたものもあります。疱瘡、天然痘の絶滅と共にその使命を終え、今ではほとんど見られなくなった玩具の一つです。

「犬張子・土鈴」

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「犬張子・土鈴」
奥の二頭は犬です。
犬はよく人に使え、魔性を退けるといわれます。また安産の象徴でもあります。

「犬張子 江戸玩具・日枝神社」

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「犬張子 江戸玩具・日枝神社」 ~江戸玩具・東京都日枝山王神社
出産祝いとして贈られるほか、各地の神社でも、縁起物として頒布されています。背にデンデン太鼓を背負っているのも、子供の健康を守るからとされます。

「ざる犬 江戸玩具・鳥越神社」

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「ざる犬 江戸玩具・鳥越神社」 ~江戸玩具・東京都鳥越神社
犬張子でも、すっぽりとざるを被っています。ざるには魔除けの霊力があるといわれることから、また、よく水を通すことから鼻の通りが良い=風邪が良くなるに掛けています。東京の鳥越神社の縁起物としても知られていて、「竹」に「犬」で「笑」となります。また小さな傘を背負っているものもあり、こちらは「傘も軽い」から「瘡も軽い」を表しているとか。

「鯛車」

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「鯛車」 ~鴻巣赤物ほか
一番奥の犬ですが、よく見ると釣竿らしきものを肩にしており、そこには鯛が掛かっています。そう、鯛は縁起が良く、鮮やかな赤色は魔除け、殊に疱瘡除けの霊力を持ちます。

「鯛車」

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「鯛車」 ~鹿児島県鹿児島神宮
同じ鯛車でも、鹿児島神宮のものは神話に由来します。海幸彦山幸彦のお話で、山幸彦の釣針を飲み込んでいた鯛を形にしています。

「赤べこ」

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「赤べこ」 ~福島県会津地方
このほかにも各地に疱瘡除けに使われていた玩具があります。有名なところで、赤べこ。
黒い斑点は疱瘡の瘡蓋をあらわしているといわれます。後に種痘のもととなった牛痘は牛の病気だというのも、不思議な縁です。今年の干支でもあります。

「さるぼぼ」

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「さるぼぼ」 ~飛騨地方
続いて、さるぼぼ。「ぼぼ」は飛騨の言葉で赤ん坊。つまり猿の赤ちゃん。病が「去る」ように、子供が健やかに成長することを祈って作り与えられたものです。

「黄ぶな」

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「黄ぶな」 ~栃木県宇都宮市
江戸時代、この地に天然痘が流行った時に、罹った子供に釣ってきた金色の鮒を食べさせたところ、病気が治ったという故事にちなみます。

「鴻巣赤物」

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「鴻巣赤物」 ~埼玉県鴻巣市
桐の大鋸屑に正麩糊を加えて練り型に入れて成型したもので、赤く彩色されます。達磨や獅子頭、熊乗り金太郎(熊金)や鯛車、天神などを題材とします。かつて子供の命に関わる疫病の疱瘡除けとして用いられました。

「奉公さん(ほうこさん)」

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「奉公さん(ほうこさん)」 ~香川県高松市
最後にご紹介するのは、悲しい素性を持つ玩具です。昔、お姫様のそば仕えをしていたおまきという少女が、お姫様が疱瘡に罹った時に、お姫様の病気をわが身にうつし、自分は一人離れ小島で世を去った。それ以降、疱瘡に罹った子におまきを模った人形を抱かせ、その人形を海に流すと病気が治る、との伝承が広まったとされます。
多くの医療従事者が、まさに今この瞬間にも、自己犠牲ともいえる献身的な対応で医療を支えてくれています。物言わず、ひたすら子供の命を守ったこれら玩具もまた、時代を超えて疫病の恐ろしさを伝えてきます。
ステイホームのこのお正月、もう一度、この疫病の拡大に対して自分ができることは何か、ひとりひとりが自分なりに、そして真剣に考える時としたい。切にそう思います。


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