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検証 公団居住60年 №70 [雑木林の四季]

第三章 中曽根民活
 Ⅶ 住宅政策大転換のはじまり一都市基盤整備公団へ再編

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

6.市場家賃化の問題点一家賃の新ルールと第6次家賃値上げ

 都市基盤整備公団法33条は家賃の決定について、市場家賃を「近傍同種の住宅の家賃」(近傍同種家賃)といいかえ、つぎの4項を規定した。

 ① 募集家賃は近傍同種家賃と均衡を失しない。
 ② 継続家賃は近傍同種家賃を上回らない。
 ③ 近傍同種家賃の算定方法は建設省令で定める。
 ④ 規定の家賃支払いが困難な場合、家賃を減免することができる。

 新公団は家賃の設定方式を変え、改定ルールもあらためた。これまでは、当初家賃は原価方式、継続家賃はいわゆる公営限度額方式に準じて算出した額を補正する方式を建て前としてきたのにたいし、近傍同種家賃(=市場家賃)を基準にきめる方式に変えた。近傍同種家賃の定義、算定方法は、都市公団法施行規則(建設省令)にさだめるという。
 家賃改定ルールも変えた。しかし実際には「市場家賃とのバランス」方式で改定をかさねてきており、市場家賃方式はすでに始まっていたといえる。
 従前ルールでの「補正」も、新ルールでの近傍同種家賃の「鑑定」もその中身はブラックボックスに閉ざされている。公団総裁はかつて国会で「企業秘密」だといい、非公開を公言した。中身がブラックボックスでは「ルール」の名に値しない。家賃算定の透明度はゼロである。さきに「光明池」事件における近傍類地価格の査定、家賃裁判での不動産鑑定と家賃算定にかんする証言を本書に引いたのは、その実体がいまも家賃改定「ルール」にそのまま続き、改められていないからである。
 1999年9月28日に家賃改定の新ルールをきめ、10月1日、都市公団発足のその日に第6次の家賃のいっせい値上げを発表した。空き家募集家賃は11月、継続家賃は2000年4月に値上げを実施する。
 その間、自民・公明・自由の連立与党に民主党が加わって「良質な賃貸住宅の供給の促進に関する特別措置法」を議員提案し、9時12月に成立。やましきがあったのかこの法律名で「定期借家」制度を創設し、借地借家法を改悪した。
 原価主義から市場主義へ家賃方式をかえて何が変わったのか、それにもとづく新たな改定ルールと値上げ実施について、つぎにみておく。

1)施策対象と大臣承認
 都市公団になって変わる第1点は、施策対象層にかんする建て前を取り払ったことと、家賃改定にたいし大臣承認の必要をなくしたことである。
 住都公団は、法の第1条から「住宅に困窮する勤労者のために」の文言をけずったとはいえ、「中堅所得者」を施策対象層とみなし、家賃設定にあたっては全国勤労者世帯の所得5分位第3分位中位層の実収入にたいする家賃負担率を目安に一定の抑制策をとってきた。その後「中堅所得層収入の概ね20%」をかかげて家賃上昇を抑制する反面、そのことを理由に居住者の収入実態は事実上無視して家賃値上げをすすめてきた。新公団法1条(目的)には公共住宅としての整備・管理の方向は示されず、したがって施策対象にかんする規定はない。
 市場家賃化を法定することで家賃改定に大臣承認を不要にした意味も大きい。公団家賃は公共料金に数えられ、その変更は国民生活に影響をあたえるとして大臣の承認事項とされてきた。それゆえ家賃改定をまえに、当事者たる自治協等の強い要請があれば国会審議がおこなわれ、参考人発言の機会も得られた。国会審議では、当面する家賃改定問題に限定せず、公共住宅政策にかかわる諸問題を広くこの機会に国会に提起し、審議することができた。住宅政策を国民の側から国会で議論できた唯一の場をつくったといっても過言ではない。市場家賃化は大臣承認を不要にして、住宅政策の国会審議の場を失わせ、公団は公共の監視をのがれて自由に家賃を変更できることになっ
た。

2)原価家賃から近傍同種家賃へ
 家賃設定の原価主義が、公共的役割をになう公団住宅家賃の算定方式として出発したことは確かだが、この方式自体のもつ矛盾が地価や建設費の高騰によって拡大し、地価バブルにくわえ政府の公共住宅政策からの撤退によって破たんは明白となった。原価主義破たんのあとには、政府の視野に市場家賃への転換しかなかった。
 都市公団は市場家賃化を原則とし、募集家賃は近傍同種家賃とつねに同一水準にたもつため、毎年改定する。継続家賃は3年ごとに見直し、現行支払い家賃と近傍同種家賃との差額の概ね3分の1を引き上げる。過大な値上がりにたいしては、「激変緩和措置」として引き上げ限度額を設ける。市場家賃はバブル崩壊後、下落ないし横ばい傾向がつづき、かりに市場家賃とに開きがあったとしても、家賃値上げをくりかえしその差はゼロ、上回ることさえありうる。
 低所得高齢者世帯等への措置については、地方自治体ごとの住宅扶助限度額をこえる部分の減額措置をとりやめ、近傍同種家賃と公営並み家賃の中間値まで引き上げる。ただし改定前家賃を下限とし、減額はありえない。
 公団家賃の原則市場家賃化にあわせ、法33条4項に「家賃を減免することができる」との条項をもうけたが、その実施は大きな焦点となろう。

3)市場家賃との開き
公団は「市場家賃との禾離」是正を値上げ理由にするが、実際に開きがあるのか。管理開始年代別に全国平均を公団調査でみると、98年4月現在では、昭和40年代団地の募集家賃44,700円(継続家賃42,100円)は市場家賃平均の89・2%、50年代団地の募集家賃66,400円(6細0円)はすでに98.4%まで接近し、60年代以降の団地の空き家募集・継続家賃はともに109,500円で市場家賃と同一額を示している。

4)募集家賃値上げ
 1999年11月の募集(空き家)家賃改定はこの差を埋めるもので、平均引き上げ率は127%(6諏円)0管理開始年代別にみると、昭和40年代が1甜%(7,200円)、50年代3・0%(2脚円)、60年代以降L1%(1,200円)であった。市場家賃との差の解消であるから、一部に引き下げ、または傾斜家賃の打ち切りもあった。その引き上げ最高額は、東京都港区のlDK(1964年管理開始)99,500円を138,400円に38、900円、引き下げは東京都大田区の1LDK(95年)176,900円を130,700円に46,200円とは驚きである。

5)継続家賃値上げ
 2000年4月実施の継続家賃値上げ対象は41軸00戸におよび、3,000円6までの値上げ290,500戸、3,000~6、000円値上げは103,500戸で94.7%を占め、それ以上の限度額13,000円までの値上げは22,000戸を数えた。据え置きは195,000戸。他方、69、000戸は近傍同種家賃を上回っており、平均7,300円の引き下げ、うち23,100戸については10,000~50,000円を引き下げた。ほかに傾斜打ち切りが59,000戸あった。
 この家賃改定によって、家賃5万円未満の37・1万戸と、5~10万円の28・6万戸で公団住宅全体の88・9%を占め、10~20万円は8万戸、20万円以上2,000戸という分布となった。
 これまでの公団家賃は、原価方式をもとに経年、規模等を反映させ、それなりに一定の「まとまり」があった。改定基準が近傍の家賃相場にかわり、従前額との開きにバラツキが大きく、値上げ幅はさまざまである。公団家賃としてのまとまりが失われ、結果として高家賃化がすすみやすくなる危険性が高まった。

6)「近傍同種家賃」査定への疑問
 市場価格は市場で自由に形成されるものであるが、不動産価格については、その特殊性ゆえに、適正な価格形成に資するため、わが国では「不動産の鑑定評価に関する法律」があり、「不動産鑑定評価基準」が詳細に定められている。しかし公団の家賃算定を法律上規制しているのは、都市公団法33条とそれにもとづく建設省令20条および21条であり、近傍同種家賃の算定方法については6項23行のごく簡単なもので、不動産鑑定の法律にも基準にも何ら制約をうけない仕組みになっている。省令は、近傍同種家賃について国家資格をもつ鑑定士による査定を義務づけてはおらず、不当鑑定への罰則や異議申し立て措置等の規定もいっさいなく、結果として無責任、悪意的な査定を許している。
 また指摘しておかねばならないのは、鑑定評価にあたって考慮すべき募集家賃と継続家賃との質的な違いについてである。
 募集家賃は、住宅を新たに選ぶ人たちが自由に契約する家賃であり、継続家賃は、すでに契約をむすび、その地に生活の根をおろし継続して住みつづけている人たちの家賃であるから、同列に並べ募集家賃を上回らなければよいというものではない。借家法は家賃改定理由に「経済事情の変更」をあげている。借家人の収入変化と地域形成への寄与も考慮の重要な対象とすべきではないのか。
 鑑定評価基準は、正常(新規)賃料は、公開の市場において自由な競争をつうじ契約が成立する新たな賃料であり、継続賃料は「賃貸借等の継続にかかわる特定の当事者間において成立する」賃料と規定する。不動産鑑定法は、鑑定結果が関係者の財産権・生活権に重大な影響をおよぼすだけに、この観点から継続賃料については詳細に規定している。これにたいして公団法33条、省令21条に、両賃料の質的な違いを考慮すべきとする規定はなく、公団が委託する業者の鑑定はもちろん、公団の家賃算定にもいっさい見られない。
 公団は全国すべての団地の調査対象住戸の比準賃料査定を財団法人日本不動産研究所1社に丸投げし、鑑定人を墨塗りでかくし提出される「調査報告書」にも大いに疑問、問題がある。2017年度にいたって鑑定業者の1社丸投げは止めたようである。

『検証 公団居住60年』 東信堂


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