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過激な隠遁~高島野十郎評伝 №41 [文芸美術の森]

第七章 「小説なれゆく果て」5

         早稲田大学名誉教授  川崎 浹

井戸水にボーフラが湧く

 ▲八月末に画家の友人一家がドライブして現地に行くと、やっと柱がたっている程度。井戸水を汲んで持ってきてくれたが緑色ににごっている。四、五日してボーフラが湧いた。
 九月十二日に「番頭」来て、十五日に家が完成するのでいっしょに行くように告げる。画家が「見ないでも、まだ出来上がっていないのは分かっている」と言ってボーフラを見せると番頭驚いて帰る。数日して番頭と社員が来訪、完成した家を見に行こうと言うので、画家は自分が望んでいるのは建て売り住宅ではなく、このアトリエとそっくりの家であると言って、流しや流し台のはき口などいろいろ見せると、彼らは驚く。井戸の水の話をすると、社員は大工は現場の水を飲んでいる。一度水さらいをするので新しく湧いた水は大丈夫だと答えるが、十日後に画家の友人が井戸水を汲んで持参してくれたがさらに濃くなっていた。
 十月は野十郎、十三日間ほど八ヶ岳に写生旅行して留守。

 十一月四日
 番頭来る。家すっかり完成したから見に行ってくれと。まだまだだめだ。窓に雨が吹きっけたらしみ込む。これはガラスの四方をすっかり目づめすることだ。そして四方から水をぶっかけてみて少しもしみないようにすること。雨漏りは画には絶対禁物。この画室はそうなっている。カーテンはどうしたか。家の床下を見たか、ここは木片もカンナクズも鋸クズ一つないようにはじめに掃除してあるが、それはどうしたか、と言って追い返す。

 十一月十日
 友人が井戸水を汲んできてくれた。それを相の保健所に持って行って検査たのむ。五日で結果が分かった。水素イオンが八十五もあって全く使用にたえず、手のつけようなしとの答え。団地のほう許可もでてないのに工事やっているので中止命令が県からきたとのこと。

 十二月六日
 コブタと番頭がきて、水はなるほど駄目だ。田端氏に頼んで水道を引いてもらった。十万円のところ、少し遠いので二万円追加、重役たちはそれは本人に出させろというが自分がケンカして会社で出させることにした。とにかく十五日までに移転するようにと会社は言っている。

『過激な隠遁~高島野十郎評伝』 求龍社


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