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日めくり汀女俳句 №72 [ことだま五七五]

七月二十九日~七月三十一日

        俳句  中村汀女・文  中村一枝

七月二十九日
髪洗ふ湯は耐へがたく熱く好き
            『汀女句集』 髪洗ふ=夏

 梅雨だ、梅雨だと言っている間に夏空ばかりで、本当にそのまま夏になってしまった。
こういう年は中休みがないのでとても疲れる。私も珍しく高熱の出る風邪をひいたし、あちこち具合の悪い人が多い。
 ようやく足腰が並みになって外を歩いてみるとふつうに歩けることの快適さに今更快哉を叫んでいる。何日かぶりの入浴、揚が体に染みていくことの気持ちよさ。
 普段何気なく見過ごしている日常の些未さの中に、ひそやかな幸せを味わった。それにしても病気はどかんときて無遠慮に居座るものだと痛感している。

七月三十日
十一階の雲持たぬ空梅雨明けぬ
            『軒紅梅』 梅雨明け=夏

 品川のお台場が様変わりした。開発当初公 団の団地に引っ越していった人がいる。十三階からの眺めは秀抜だと言っていたが、周りは荒涼とした荒地と原っぱ。それが今やお台場詣でという言葉がある程、東京の新スポットだ。
 新橋からゆりかもめで十分、目前に広がる東京湾、レインボーブリッジ、立ち並ぶ高層群の風景はまさに未来都市、駅を下りると、ショッピング街、公園、テレビ局もホテルもある。個性的なレストラン街は週末や夜は人で埋まるそうだ。建物の中に入って上を見上げると、人工的に作られた美しい青空がある。
 映像の中を歩いている思いがずっとした。

七月三十一日
白玉や己(おの)れひとりの丸さとも
            『薔薇粧ふ』 白玉=夏

 夏になると白玉が食べたくなる。久しぶりに白玉をねってみた。べたっべたっと指にまつわりついてくる感触、技なんか何もないけれど、このまるみを作るのはなかなかこつがいる。大きな、いかにも働き者のおばさんの手の中に入ると、白玉のまるが苦もなく生み出されてくる。そういう光景がかつてあった。沸(わ)き立った鍋の中に一つずつ落とし、浮き上がった白玉を冷たい水に。一連の手作業の内にロの中に白玉へのまろやかな思いがかもし出されていった。
 いっときの夏の歯応えが白玉にはある。

『日めくり汀女俳句』 邑書林


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