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ケルトの妖精 №40 [文芸美術の森]

パドルフット

           妖精美術館館長  井村君江

 スコットランドのバースシャーに、家事好きの妖精が住んでいる村があった。
 夜になると村の一軒の家に現れて、台所の汚れた皿を洗ってくれたりするのだが、ときには戸棚にしまってある皿を放りだして散らかしたりする、気ままないたずらものだった。
 この妖精は、陽が沈むと、どこからか家の前の小川を渡ってやってくる習慣をもっていた。
 小川のなかをバシャバシャと歩いてきて、そのままぬれて汚れた足で家のなかに入ってくるのだった。そこで村人たちは、いつのまにか彼のことをパドルフット(泥んこ足)と呼ぶようになった。
 ある晩のこと、パドルフットがいつもの小川で水をやたらとはねかえしているところへ、街から戻ってきた男が通りかかった。男は街の居酒屋で一杯やってきたところだったから、酒のいきおいで、こう呼びかけた。
「よう、泥んこ足。そこにいるのは、おまえさんかい?」
 すると、パドルフットは怒って言った。
「なんてこった、まったく。おいらのことを、泥んこ足なんて言いやがって」
 そして、くるりと踵を返して走り去ってしまい、この村へは二度と現れなくなったということだ。パドルフットは、泥んこ足と呼ばれるのが大嫌いだった。

◆ パッドフット(ばたばた足)という、パドルフットと似た名前の妖精がいる。これは日本の「ひたひたさん」や「べとべとさん」のように、道を行く人の後ろからどこまでもついてくる。
 ヨークシャーのリースに現れたパッドフットは、羊ぐらいの大きさをした毛の長い犬のような姿だった。うめき声をあげたり、ジャラジャラと鎖のような音をたてたりして、人の後ろをついてくるので、気味悪く思った男が杖でつついた。ところが杖はその身体を突き抜けてしまい、パッドフットに皿のような目でにらまれた男は、その恐ろしさから床についてしまったということだ。
 こうした道ばたに出没する妖精たちには、声をかけるのはまだよいとしても、さわったり手を出したりはしないほうが賢明のようである。


『ケルトの妖精』 あんず堂

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