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日めくり汀女俳句 №71 [ことだま五七五]

七月二十六日~七月二十八日

      俳句  中村汀女・文  中村一枝

七月二十六日
窓の灯のきそひて消えず夏休
            『紅白梅』 夏休=夏

カレンダーを見て、最初に、今年は何日休みがあるだろうと数える。私はそういうこどもであった。学校は好きではなかったし、勉強はもっと嫌いだった。
 最近のカレンダーはうらやましいほど休みが多い。二十日の海の碑など一日早く一学期を終わらせる口実かな。今、小学生だったら私は大喜びだ。親の身になるとやや休みの多いのは頭がいい。お金もかかる。蝉(せみ)とりに興じ蜻蛉(とんぼ)を追うなどという子どもは個展になった。夏休みに子供の歓声を聞こうなど、大人の勝手な郷愁のなかだけの話である。

七月二十七日
つと逃げし蛍の闇のみだれかな
      『薔薇粧ふ』 蛍=夏

 犬が逃げたという張り紙を電柱で見た。つい何日か前に友人から「柴ちゃんの雑種で赤い首輪、緑の紐(ひも)をつけてるんですって。何人もからの通報があったのにつかまらないの」という電話があった。
 いままでにも何匹かの迷い子の犬の情報があって、そのたびに人にも頼み、自分も心して探したが、やはり運のいい犬と悪い犬があるものらしく、まよいこ布田も観察もつけていたもみつからないあいいもある。この炎天下、主をさがして歩いている犬のうしろ姿がつい目に浮かんでしまう。

七月二十八日
夏布団病篤ければおとなしく
       『春雪』 夏布団=夏

 夏カゼのひどいのをひいた。もともと子どものころから気管支ぜんそくで、カゼをひくと気管支をやられる。子どものころは病気になると待遇がぐっと変わった。病床まで食事を運んでもらえたし、面白そうな本も何冊か買ってもらえた。母の声音も一段と優しい。病気の苦しさはイヤというほど味わったが、どこか病気には甘やかな慕情のようなものさえ感じていた。
 がんの手術をうけた時、主治医の先生が「病気になれているせいか自然体で手術もうまくいった」と言われた。病気と仲良しにはあまりなりたくないが。


『日めくり汀女俳句』 邑書林




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