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梟翁夜話 №74 [雑木林の四季]

コロナとお国柄

               翻訳家  島村泰治

十月も二十日過ぎて年の暮れも指呼の先、五輪の年も五輪なしでほぼ無為に去らんとしてゐる。年明けからのことだから、大半をコロナに引っ掻き回されて暮れるとなれば、何のことはないこの一年、黴菌一個に天下を盗られた為体(ていたらく)だ。

だがこの黴菌、出方によってさまざまな振る舞ひを見せた。出処の支那では半端でない数の人々が悶絶したらうに、あの国のことだ、うわべは程々の数字で実害が糊塗された。支那を強烈に意識する台湾が、常日頃の警戒心が実って世界に冠たる実績を挙げたのは見事だ。ラテン系の国々ではそのラテン性が仇をなし、いまこの黴菌の反撃を喰らって大変な目に遭ってゐる。フランスなど、人に会えばマスクを外してキスしハグをすると云ふ妙なる風習が災いして、今や第何次かの「再発」を招いてゐる。大統領選挙を旬日に控えるアメリカでは、この黴菌、その行方を左右するかのようにおお羽根を拡げてゐる。

どうやら国によってコロナの出方が違ふやうだ。つまりこの黴菌、お国柄を弁(わきま)えて振舞ってゐるとしか思へない節がある。それにしても、日本の対応は頭抜けて素晴らしい。死者数など桁違いに少ない。日本の国柄が幸いしてゐるとしか思へぬほどだ。某教授よれば、ある種の変異が幸いして日本人は免疫ができているからだと云ふのだが、どうやらこの国柄が預かって力あるとしか思へない節がある。

さて、そのフランスだが、つい昨日あたりのニュースでは一旦緩めた規制が再び掛けられて、夜間の外出まで取り締まられる始末だ。経済との兼ね合いでマクロン首相の悩みは深い。いっときイタリアの惨状が伝えられて話題になったが、いまこの時期フランスにコロナ禍がぶり返してゐるのは、この国に関わる人には聞き辛からうが、どうやらこの国柄のせいだ。

ビールが水より安いと云ふ国だから、手洗いうがいに手ぬかりがあらうし、勢い衛生感覚が萎え、それを補う香水が生まれ名香が世界を席巻するなどの余波があるほどだ。華のパリとは言えかし、衛生環境は至極悪からう。それに例のキスハグの習性も手伝って、黴菌蔓延るこの国は滅法不衛生だ。

これをわが日本を比較すると、大きな違いが見えてくる。近頃街中へ出ると分かることだが、見回せばマスク人の海、マスクなしでは店にも入れぬ。店の入り口には必ず殺菌スプレイが置かれ、ない店には客が薄いという現象だ。これをフランス人が見たら恐らく集団ヒステリに思へるだらう。その反応も分からぬではないが、こと黴菌となると話が違う。集団ヒスと見えて実は生来の綺麗好き、日本人の特性のひとつと見ればこれは美徳、西洋人いや一部の亜細亜人に欠ける「佳きこと」の最たるものだ。

いや、今次のパンデミックをここまで押さえ込めたとなれば、日本の国柄は世界に冠たる美徳、大いに誇っていい。個人の自由意識が植物なら繁茂し過ぎたかに思へる日本人が、一旦ことある時は一斉に右向け右ができることの意味は大きい。黴菌は怖いぞ、手を洗えマスクを付けろ。パンデミックならずとも、何につけ意識的に団結できることは、国家として欠かせぬ資質、日本人にそれがあるとは心強い。

一旦緩急ことある時は、とは懐かしい言葉だ。日本が先の戦争に追い込まれた時は将にそんな時だった。あの時は、日本人はマスクならぬ鉢巻きを締めてあの国難に立ち向かったのだ。だから、このコロナ騒ぎに一斉にマクスをつける日本人を見て私は他人様ほどにはコロナを毛嫌ひしてはゐない。日頃から言葉ばかりか根性までも劣化したとばかり思ってゐた日本人に、いざ国難となれば、まだ一致団結する心根が芽吹くことを目撃して時ならぬ安堵感を覚え、密かににんまりしてゐるのだ。


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