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検証 公団居住60年 №66 [雑木林の四季]

第三章 中曽根民活
 Ⅶ 住宅政策大転換のはじまり一都市基盤整備公団へ再編

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

1.住宅審答申「21世紀に向けた住宅・宅地政策の基本的体系」
 公団組織の変遷、公団住宅の家賃のくりかえし値上げ、住民追いだしの建て替えが、1980年代にはいり臨調、行革審、これに従う住宅審の答申、提言に端を発していることをみてきた。審議会の主要メンバーをみれば、いうまでもなく財界からの要求、圧力である。「行革」「民活」路線は当然に国民生活との矛盾をふかめ、行きづまりをきたす。その打開の道を、自民党が久しぶりに首相をとりもどした橋本龍太郎内閣はさらなる「火だるま行革」にもとめ、かつてなく内閣が口火を切って「公団つぶし」をぶちあげた。住宅・都市整備公団の廃止、都市基盤整備公団への再編は、21世紀を境にしてわが国の住宅政策が大転換をとげるその先触れであった。
 1994年6月30日に自民・社会・さきがけ3党連立の村山富市内閣が成立するや、消費税率5%への引き上げをかかげ、規制緩和、特殊法人の見直しなどに乗りだした。住都公団を見直しの目玉にし、さきがけは「住都公団民営化は97年4月から」の案までだした。自治協はただちに大運動を展開し、この案はとりあえず取り消させた。
 一方、同年9月に住宅宅地審議会(亀井正夫会長)住宅部会は、「21世紀に向けた住宅政策の基本的体系」についての中間報告を発表し、95年6月にだす本答申と、第7期住宅建設5カ年計画の方向を先導した。中間報告は、「新たな政策体系の考え方」と「住宅政策体系再編の必要性」を前面にかかげ、政策理念の「再確認」をもとめ、ねらいは主要3制度(公庫融資、公営住宅、公団住宅)の見直しと、市場主義へ地ならしする規制緩和にあった。全国自治協は、住宅審住宅部会の「中間報告」がもとめたパブリック・コメント
として95年3月に意見書を提出した。
 中間報告は冒頭「公的主体による直接供給、公的支援中心の政策から視野を広げ、新しい政策体系へと再編する必要がある」と切りだす。土地・住宅は「商品」、その便益は「私的に消費されるもの」、取得は各人の自助努力と支出能力しだい、対価は市場の原則によって決まるとの立場をつらぬく。したがって住宅政策の第一の目的は「住宅市場の整備」にあるという。「自力では住宅市場に参加が困難な人びと」「真に公的援助を必要とする世帯」には公的供給をはかるが、あくまで「住宅市場の補強・補完」と位置づけ、施策対象層の限定と「市場への復帰を促す家賃体系」の検討をもとめた。
 住宅政策を公共責任から市場まかせに転換するうえで、まずなすべきは規制緩和である。国も施策上の目安としてきた一定の居住水準、住居費負担限度率を、ライフスタイルや居住ニーズの多様化、政策目標の多元化を理由に一掃する方向である。つぎに借家権を規制緩和の対象にあげ、「定期借家」構想を打ちだす。定期借家制度がはじまったのは1999年12月であるが、すでにこの報告のなかで、従来の借家制度では、継続家賃の値上げが抑制さ
れる、建て替えが阻まれる、いったん貸したら返ってこないから良質な借家供給が進まない、と定期借家契約の創設をとなえ、そのすぐあと閣議決定をした。
 本答申の最大のねらいは、公共住宅制度の見直し(→廃止)にあった。制度ができて40年以上たち、人口・世帯の動向、高齢化の進展、ライフスタイルの多様化のほか、バブル後の地価動向や規制緩和の進行などの基礎的条件が変わった。民間事業者による供給能力が向上して、90年代にはいると民間供給のシェアは95%を占めるにいたった。ストック、フローとも民間供給の役割は大きくなり、民間市場への傾斜はますます強まるとの見方が背景にある。
 公営住宅の新規供給はほとんどなくなり、大都市では応募倍率は高まっている(92年度3大都市圏、新規住宅18.5倍、空き家7.4倍)。この現状にたいし答申は「需要に応じた供給は困難」とし、低家賃ゆえの「長期居住」の弊害と民間借家との著しい不均衡をあげて「供給の公平性」を強調、「市場復帰」を促す新たな家賃システムをとなえる。また建て替えによる「低廉な家賃で高い居住水準」の公営住宅入居を、民間借家にすむ中堅層の住宅事情との「逆転現象」ととらえるなど、答申には所得による差別意識、低所得者蔑視が露骨にあらわれている。
 住都公団については、民間にできる分譲住宅供給等はやめ、民間では対応が困難な業務を重点化すべきであるとし、公団が基盤整備をおこなったあと「住宅用地、躯体を民間事業者に分譲する」ゼネコン奉仕型への転換をもとめた。答申はまた公団家賃について「市場家賃とのバランスをはかる必要」を強調した。
 住宅金融公庫には、金融の自由化にともない民間住宅ローンが成長し多様化している状況をふまえ、民間ローンと協調しうる融資への改善をもとめた。持ち家需要者への公共的な直接融資から、住宅ローン市場をひろげる民間金融支援の方向への転換である。

『検証 公団居住60年』 東信堂


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