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日めくり汀女俳句 №68 [ことだま五七五]

七月十七日~七月十九日

       俳句  中村汀女・文  中村一枝

七月十七日
送火の名残の去年に似たるかな
              『春雪』 送り火=秋
 昭和十二年、汀女は再び慌ただしく荷造りをする。東京税務監督局長に転任した夫についてようやくなれ親しんだ仙台を後にする。
 サラリーマンとは無縁の家に育った私には命令一下家族が移動する情況がなかなかのみ込めなかった。今なら夫一人の単身赴任ですませてしまうのだろうか。そのために四回も小学校を変わった夫は、性格がゆがんだと今でも言う。子供が転校するたびにどんなに傷ついたか、汀女が知らなかったとは思えない。彼女自身も未知の土地や人間の間で心細い思いを句に託したのだろう。

七月十八日
汗ぬぐふ人の話を待つ聞かな
              『薔薇粧ふ』 汗=夏
 バーゲンの季節である。どこへ行ってもSALEの赤い札。近くのスーパーのセールの初日、毎年夏、冬のことだが、他のどこの店よりもブランドのタオル屋が大人気だ。山のように積み上げられたタオルの山の底からタオルを引っ張り出し、右に手を伸ばし、左手でかき回し、おばさんの本領発揮。
「うちの戸棚もうぎっしりなんだけど」後ろで話し声がしている。それでも買いたいこの気持ち。多分男にはわかるまい。戦争中、薄いぺらぺらのタオルをけばか立つまで使っていたことをふと思い出してしまった。

七月十九日
朝顔や水梓(みさお)引摺(ひきず)り来て落とす
           「汀女初期作品」 朝顔=秋
 汀女が泳ぎを覚えたのは小学生の時。「せめて手拭いはまいてるけど水の中に入れば裸じゃないの」。寒くなると繋留されている舟にたまった雨水に体を沈めて温まった。祖母から「あんた、すみら(煮ると真っ黒になる球根)んごたる。そぎゃん黒うなってどうするかな。嫁に行けんばい」と言われるほど野性にあふれた女の子だった。
 その頃の江津湖は、藻やホテイアオイが増殖していて、農家は藻刈り舟を持って川底の
浚渫(しゅんせつ)をした。汀女の思いのつくる所はいつも水辺にもどる。

『日めくり汀女俳句』 邑書林


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