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検証 公団居住60年 №64 [雑木林の四季]

第三章 中曽根民活
Ⅺ 転換きざす住宅政策と公団の変質―90年代の居住者実態

       国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

5.公団の変質をあらわにした第5次家賃値上げ

 1991年の第4次家賃値上げは、周期を5年から3年に早めた最初の値上げであり、93年7月には、もう94年度の第5次改定を表明した。91年4月の国会審議で、公団家賃の改定ルールの破たん、再検討の必要を公団自身も認め、公団職員出身の大塚雄司建設大臣は住宅政策を全般的に見直す方向、とくに高齢者等にたいする施策の改善を約束したが、その結果がこれである。家賃改定ルールも特別措置もまったく検討せず、開き直ってさえいる。政府・公団の自治協要求はもとより国会無視もはなはだしい。
 つづく第5次値上げにあたって公団は、新たな理由づけをおこなった。第1に、公共住宅家賃についても住宅および敷地の「使用の対価」、商品価格と同じと強調したうえで、第2に、これまでの「経済事情」に「立地、便益等の変化」をくわえ、それに即して見直し、「適正な家賃」つまり市場家賃との差をなくしていく、と切りだす。周辺地価の高騰を家賃に反映させる改定方式を見直すどころか、逆に市場原理への傾斜をいっそう鮮明にした。第3に、居住者の負担能力への配慮はいっさい示さず、値上げの「妥当性」の証しとして、90年代初めの公団の新規および空き家住宅の応募倍率(全国平均ともに約16倍)を引き合いにだす。第4に、低所得高齢者世帯等への特別措置要求にたいしては「公営住宅等に入居するか、公の福祉制度のなかで措置を」と切り捨て、公団に期待される福祉的な役割をこばみ、住都公団の変質を露わにした。
 全国自治協は93年9~10月に全世帯対象の第3回「団地の生活と住まいのアンケート調査」をおこない、10~12月には「第5次家賃値上げ反対」「定住を保障する家賃制度に」等を合い言葉に全国統一行動を展開した。全国252自治会参加、約18.6万世帯、53.7万人の署名、6,245万円の運動資金カンパがよせられ、12月1日の総決起集会後、建設大臣と公団総裁に署名を提出した。
 この年8月に自民党宮沢内閣から非自民6党連立の細川護内閣にかわった。全国自治協代表は10月26日、五十嵐広三建設大臣に面会し、94年度の家賃値上げとりやめ、家賃改定ルールの再検討を要請した。全国の団地自治会、自治協が政府・国会にたいし精力的に家賃値上げ反対の要請活動を展開していたとき、政局は激変・混迷をきわめていた。

6.政局混迷のなかの家賃値上げ大臣承認

 1993年8月発足した細川内閣は、9月に衆議院の小選挙区比例代表並立制導入、政党助成など政治改革関連4法案を成立させたあと、佐川急便疑惑にからんで国会は空転、94年度の予算審議は大幅に遅れていた。また94年1月の郵便料金値上げにはじまり、この時期、各種公共料金、国内電話料金、高速道路料金、タクシー運賃、火災保険料などの値上げ申請があいついだ。公共料金の一つであった公団家賃も、公団は3月30日に建設大臣に値上げの承認申請をおこなった(94年10月1日実施、上限額1居住室7,000円、2居住室8,000円、3居住室9,000円、その他)。細川首相は4月8日に辞意を表明した。
全国自治協は4月12日、新内閣にむけて国会要請集会をひらいた。
 つづく羽田孜内閣は、5月に公共料金引き上げの年内凍結を決めた。しかし翌6月には社会党の連立離脱で2カ月の短命におわり、6月30日に自民・社会・さきがけ3党連立の村山富市内閣が成立した。
 第5次家賃値上げに反対する公団住宅居住者の運動は、93年7月から94年6月までの1年間に4内閣も転変するなかで進められた。公団の値上げ申請にかんして国会で十分な審議がおこなわれる状況にはなかった。それでも自治協は、5月19日にも国会集会をひらくなど、ねばり強い働きかけで、6月3日には衆院建設委員会で公団家賃問題がとりあげられ、居住者の要求を政府決定に反映させ、一定の成果をおさめることができた。公団の値上げ申請案は村山内閣の12月27日にいたって承認された。そのさい公団申請案に変更がくわえられた。①実施時期の6カ月延期、②引き上げ上限額の各1,000円減額、③敷金の追徴中止、④特別措置の適用年齢70歳以上を65歳以上に引き下げ。
 村山内閣は公共料金の値上げ凍結解除にあたって、値上げはやむをえないものに限る、理由や根拠を明らかにする、情報公開、厳正な検討をもとめる等の閣議決定をしたが、政府、国会とも十分な審議をしないままの値上げ承認を決定するにいたった。
 第5次値上げ対象は全国376,100戸、値上げ前平均家賃37,700円、値上げ額3,300円、引上げ率臥6%。東京支社管内でいえば、144,300戸、42,900円+3,900円、9.8%であった。

『検証 公団居住60年」 東信堂


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