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地球千鳥足 №137 [雑木林の四季]

六個代払って四個残したら?   ~チェコ共和国~  

  グローバル養育者・小川地球村塾塾長  小川彩子

 プラハではヴァーツラフ広場の一角に宿を取った。広場と言うより大通りで、正面には通りにまたがり国立博物館が聳え立つ大変美しい通り、聖ヴァーツラフの騎馬像が近い。プラハは我が夫が20年前、定年退職記念にバックパッカーで訪問した街の1つだ。直ぐに通りをぶらつきに出た。「街は綺麗になったが大きくは変わっていない」とひときわ感慨深げな夫。カレル橋に至る迷路はごみごみしているが賑やかだ。丁度プラハ・マラソンが行われた日で、旧市街広場をスタート・ゴールとするこのマラソンには世界各国から参加者が集るようで、応援者やお上りさんで混雑していた。覚えている人はもう少ないかもしれないが、かつてチェコの民主化を弾圧するためにこのヴァーツラフ広場に旧ソ連軍の戦車が乗り入れ、それに抗議しヤン青年がこの騎馬像の前で焼身自殺を図ったのが1969年。
 ぶらぶらと店を冷かしているうち、とある1軒の店でチェコ・グラスが気に入った。ビール用に丁度よい形、大きさ、軽さ、で、彫刻が美しい。店員は6個セットでないと売らないと言う。半端は売れ残ってしまうから当然だろう。だが旅の途中であり持ち回ることは大変だ。「2つ欲しい、荷物になるから」と尋ねた。「そうですか。それなら2つ持ち帰り、4つを店に残してくださればあなた方のことをいつまでも思い出します!」と。なるほど……。嫌味ではなく、とてもフレンドリーに聞こえ、素晴らしいアイデアだと感心はしたが、支払うのはこちらなのでその店を切り上げた。だが、冗談とも本気ともつかぬ咄嗟のコメントにチェコ人の余裕が感じられ、余韻が残った。他方、目先のことしか考えなかった我ら夫婦をのちのちまで後悔することとなった。
 なんと、プラハのこのグラス屋に立ち寄ったこの日、夜行でポーランドのクラクフに向かい、列車内で集団スリに持ち金のほぼ全てをもぎ取られてしまったのだ。無くす運命にあったお金で、あのときチェコ・グラスを買っていたなら、それは今も我々のビール&ワイン・タイムを豊かにしてくれたであろう。あの店員さんにも一生我々を思い出して頂けたものを……。きめ細かな彫刻を施した深いワイン・カラーのグラスだった。手にし損ねたグラスは永遠に美しい。

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ヴァーツラフ広場でチェコビール、ピルスナーを飲む夫・広場の正面は国立博物館
「絵:By 小川律昭」
137.JPG
チェコグラスの代わりにヴェネチアングラスでご免なさい!


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