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日めくり汀女俳句 №65 [ことだま五七五]

七月八日~七月十日

         俳句  中村汀女・文  中村一枝

七月八日
宵はなやか白靴きそふ飾窓
             『薔薇粧ふ』 白靴=夏
 夏の白い靴がへったなと思う。お酒落上手な最近の若い人は、夏だからと、こと更白い靴をはかなくなった。だから店先でたまに白い靴をみかけると、それはそれで新鮮にみえる。年をとっても適当にヒールのある、細身の靴をはきこなしている人を見るとちょっと羨しい。
 中広のべたんこ靴になれてしまった身には細いデザインの靴ですっ、すっと足を伸ばして歩く姿がとても女っぽくって、顔は老けても足は老けたくないと思ってしまう。たまに真似してみたくて古い靴を引っ張り出し、はいてみるが、「痛っ」というわけで、今更に不格好に変形した足を恨めしく眺めている。

七月九日
合歓(ねむ)咲きし夜を来るといふ大蛾かな
               『都鳥』 合歓=夏
 子供の時から大の蛾ざらい。蝶々と違って胴体が太く、羽根や目が毒々しく光っていたりやっぱり不気味である。
 二十年前八ヶ岳にきた頃は蛾が群をなしていた。私は枕カバーの古いのに目だけあけてすっぽり頭からかぶり、部屋の出入りをした覚えがある。それがここ数年めっきり蛾が少ない。まして大きい蛾と逢わなくなった。半分嬉しいが、これも環境汚染がこんな山の中まで浸透してきたと思うと不安だ。それが今年朝ガラス戸に緑色の三角形の大きさのが、べたっと三つはりついている。さすがに昔日の如くきゃあと言わなかったが、やっぱり不気味。

七月十日
ハンカチはたたみて目し旅をつぐ
            『紅白梅』 ハンカチ=夏
 木綿のハンカチーフを首のまわりに結ぶのが好きである。ブランドものでも千円から三千円止まりで買える所がいい。洋服の気分も変わるし。それに、首の級もかくせる。
 首のまわりにくる色で人は印象が変わる。鮮やかな赤も、清々しいグリーンもまったく違った雰囲気をもたらす。日本人はネッカチーフや小物の扱いが下手と言われてきたが、最近時々これは、と思うお酒落な中高年女性に出会う。年をとることを逆手にとった小粋な装いが、身についてきた人が増えている。
『日めくり汀女俳句』 邑書林


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