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検証 公団居住60年 №62 [雑木林の四季]

第三章 中曽根民活
Ⅺ 転換きざす住宅政策と公団の変質-90年代の居住者実態

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

2.第6期住宅建設5カ年計画にみる住宅政策の推移と転換

 住宅審答申をうけ策定された第6期5カ年計画(1991~95埴)の中身をみるまえに、住宅建設計画の推移をみておこう。
 第1~2期(1966~75年度)では住宅難の解消、住宅の量的充足に政策の目標をおき、第3~4期(1976~85年度)は「量から質へ」と重点を移し、最低および平均居住水準を設定した。最低居住水準未満については第4期中の解消を目標にかかげたが、解消のめどは立たず、京浜大都市圏では公共借家の30.8%、民間借家の25・8%が最低居住水準未満にあった。
 1986年度にはじまる第5期計画は、最低水準未満居住については年度をきっての解消を目標からはずし「ひきつづき解消に努める」にとどめ、新たに誘導居住水準を設けて、半数の世帯が2000年を目途にできることに目標を据えかえた。「誘導居住水準をガイドラインにしつつ住宅脚を促進し、あわせて内需拡大の要請に応える」方向に転じた。
 第5期までの、公的資金による住宅建設の計軒数の推移をたどると、公営住宅はピークの第2期5年間の67・8万戸から第5期28万戸へ激減、しかも達成率は70%台にとどまり、公団住宅は第2期46万戸から31万戸、20万戸へ減少、達成率は50%台と低く、第5期はさらに削減して13万戸、達成率82%におわり、実績では第1期の33.5万戸から第5期の10.7万戸へと減少しつづけた。これにたいし公庫住宅は、持ち家政策を推進し、計画戸数を第1期108万戸から第6期244万戸まで増大させ、達成率は110~130%台を示した。
 第6期5カ年計画は、「公共賃貸住宅の供給強化」を特記しながら計画戸数は公営および公団住宅それぞれ5カ年で1万戸を上積みしたにすぎない。しかも公共賃貸住宅を「民間供給の不足分の補完」と位置づけ、住宅供給を促進する方策も、需要要因より供給要因の改善に主力をおいた。需要者層にたいする補助等の優遇措置は住宅価格、家賃の相対的上昇をまねくだけとし、供給者の住宅供給意欲を高めるインセンティブ、課税上の措置の実施等を中心的な政策とすべきと結論づける。第6期5カ年計画にいたって、公的主体が良質・低廉な住宅を直接供給する政策から後退して、住宅供給を自助努力と市場メカニズムにゆだね、政府の関与は間接的なものとし、「民間活力による住宅供給の的確な誘導・助成」にとどめる方向への転換を明確にした。
 ここに1991年度予算について、公営、公団、公庫への実質補助額が階層別1帯あたりにたいしどのように配分されているかを分析した論文から引用しておこう(玉置伸倍「公営住宅の評価と現代的意義」、住宅1991年10月号)。
 「国民1世帯あたりどの程度の補助が行われているかを計算した。各階層1世帯あたりにたいしては、公営階層3.5万円、公団階層1.1万円、公庫階層10.8万円となる。
 平均では1世帯あたり5万円となり、国民全体では1兆7千億円が補助されていることになる。このうち8,300億円が一般会計による直接的国庫補助であるから、それにほぼ等しい額が低利資金融資等から間接的に補助されていることになる。
 そのなかで最も恩恵に浴しているのが公庫階層である。公営つまり低所得階層の約3倍、公団つまり中間所得階層の10倍にも及ぶことになる。さらに、持ち家建設者にたいしては住宅財形やローンにたいする税控除など、さまざまな税制上の優遇措置があるから、実際はこの試算値をはるかに超える持ち家階層への支援があるとみなければならない。
 以上のように、公営階層よりも、むしろ持ち家階層に手厚い援助が行われていること。第二は、ここで公団層と想定した中間所得階層が最も不利な状況におかれていることが指摘される。
 政策の重要な機能の一つに所得の再配分効果があげられるが、住宅政策はその機能に逆行しているといわなければならない」
 ついでにいえば、第5期計画2年目の1987年は「国際居住年」(IYSH:International Year of the Shelter for the Homeless)にあたった。第37回国連総会は、2000年までを展望して世界各国、とくに開発途上国が、それぞれ当面する劣悪な住居および居住環境の改善を進めることをめざし国際居住年を定めた。国連は居住の要件として最小限の広さ、安全な衛生環境、学校や医療施設に通える立地、立退きを強制されない権利、負担できる家賃等をあげ、その要件を一つでも欠けば「ホームレス」と規定していた。わが国でも最低居住水準未満の解消にこそ力を注ぐべきところ、政府はこの目的を投げすて、逆に「民活型」政策への転換をはかっていた。公団自治協は住宅運動団体と共同し、東京と大阪でシンポジウムや集会をひらき、また「土地と住まいに関する請願署名」を233団地で522,810人集約し、大きな役割をはたした。


『検証 公団居住60年』 東信堂

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