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ケルトの妖精 №33 [文芸美術の森]

ロビン・グッドフェロー

           妖精美術館館長  井村君江

 妖精王オーベロンは、ある日イギリスの田舎の村を通りすぎようとしたとき、ひとりの美しい娘に出会って恋をした。ロビン・グッドフェローは、その二人のあいだに生まれた子だった。そういうわけだから、ロビンは半分は妖精、半分は人間で、いわば妖精のハーフであった。
 妖精王オーベロンがどこへともなく去ってしまったあと、ロビンは母親とふたりで暮らしていた。母親も手を焼くほどのいたずらっ子に育ち、そのうえ早熟だった。
 六歳になったとき、「こんな田舎はおもしろくないや」と、家を飛びだしてしまった。
 町へ出ていって仕立て屋の小僧になったが、落ち着きがない性格なので地道な仕事は勤まらず、すぐに仕立て屋の親父から追いだされた。
 それから、あちこちの町や村を回って、いろいろな冒険をしておもしろおかしく暮らしていた。夜になると、ホウキをかついで「煙突掃除屋だよう」と呼び声をあげながら街を歩く。だれかが掃除を頼んで声をかけると、「ホー、ホー、ホー」と言って逃げていってしまう、といった具合だ。
 そんなある日、ロビンは不思議な夢をみた。
 夢のなかで、父親のオーベロンが、「おまえが望むものはなんでもあげよう、それからおまえには望む姿に変身できる力がある」と告げたのだった。
 ロビンが目を覚ますと、枕もとに金の巻物がおいてあった。
「きっとこの巻物があれば、夢でみたことがかなえられるんだ」
 そう思ったロビンは、さっそく、魔法の力を使っていたずらに精をだした。千変万化に変身し、自由自在に動きまわり、人間にさまざまないたずらをしてまわった。

 ときには人の姿になって
 ときには牛や犬に化け
 みんなのまえに現れる
 馬になって駆けまわり
 もしも背に乗る奴がいれば
 風より早く駆けだして
 生垣、地面を飛び越えて
 川の澱み、池の水をくぐり抜け
 いななきは笑いだ、ホー、ホー、ホー!

 さすがの妖精王オーベロンも、ロビンのいたずらが度を過ぎることを気に病んで、ある日、ロビンを人間界から連れ去り、妖精の国に住まわせることにした。
 ここでロビンは、親指トムに出会った。しかしロビンが一緒に遊んでもらいたいのに、トムは忙しそうでなかなかかまってくれなかった。このトムも妖精とのハーフだったが、たくさんの冒険をしてきていたのだった。
 ロビンはトムの波瀾万丈な生き方に憧れたが、それを横目で見ながら、妖精の国でも好き勝手ないたずらをして、楽しく生きたということだ。

◆ シェイクスピアが活躍していたころのイギリスで、もっともよく知られていた妖精がロビン・グッドフェローだった。
『ロビン・グッドフェロー、悪ふざけと陽気ないたずら、罪のない浮かれ騒ぎ、沈んだ心をなおす良薬』(一六二八年)という長い名前の小冊子が発行されたが、その挿絵では、ロビンは小人の妖精の輪のなかに上半身は人間、下半身は山羊の姿で、ホウキをかついで踊っている。ロビンがホウキをかついで人間をだます場面から見てもわかるように、妖精はきれい好きなのである。
 いっぽう親指トムは、生まれて四分間で成長が止まってしまい、親指の大きさしかなかったので、みんなに「親指トム」と呼ばれた。
 トムは、親ははっきりしないが超自然の存在だと思われている。子どもをほしがっていた農家の女房が、嵐の晩に一夜の宿を求めてきた魔法使いマーリンに頼んで授かった子どもだった。トムが生まれるとき産婆役をしたのは妖精の女王で、この女王にかわいがられていたので、小人の王トワドルに冒険に連れていってもらったりした。たくさんの冒険をしたが、鮭に飲みこまれてお腹のなかで大あばれ、飛びだしたところがアーサー王の宮廷だった。トムは、ここで人気者となって騎士になったりもした。『アーサー王伝説』と親指トムとのつながりが、ここには見られる。

『ケルトの妖精』 あんず堂

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