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論語 №101 [心の小径]

三一七 定公(ていこう)問う。一言(いちげん)にして以て邦(くに)を興すべきものこれありや。孔子対(こた)えていわく、言は以てかくの如くそれ幾(き)すべからざるなり。人の言にいわく、君(きみ)たること難し、臣たること易からずと。もし君たることの難さを知らば、一言にして邦を興すに幾(ちか)からずや。いわく、一言にして以て邦を喪(ほろ)ぽすべきものこれありや。孔子対えていわく、言は以てかくの如くそれ幾(き)すべからざるなり。人の言にいわく、われ君たるを楽しむことなし。ただその言いてわれに違(たが)うことなきなりと。もしそれ善にしてこれに違うことなくば亦善(よ)からずや。もし不善にしてこれに違うことなくば、一言にして邦を喪ぽすに幾からずや。

               法学者  穂積重遠

 同じ「幾」を前には「き」とよみ後には「ちか」とよむのはおかしいというので、「一言にして邦を興すに幾せざらんや」とよむ人もあるが、どうせ日本よみにするのだからわかりよい方がいいと思って、「ちかからずや」とよんだ。「一言にして以て邦を喪ぽすもの」となっている本もあるが、『論語』はこういう場合にいつも同じ口調をくり返すのが例だから、「邦を喪ぽすべきもの」とある方によった。

 魯の定公が孔子に、「一言で国家を興隆させ得るほどのききめのある言葉が、そもそもあるものだろうか。」とたずねた。孔子が答えて申すよう、「言葉と申すものは、必ずこういう益があるときめこんでしまうことができるものではありませんが、世間で『君となるのはむずかしい、臣となるのもやさしくない。』と申します。その『君たること難し』ということがわかれば大したものですから、これなどは一言で国家を興隆させ得るに近い言葉ではござりますまいか。」「それでは一言で国家を滅亡させ得るほどの害のある言葉が、そもそもあるものだろうか。」「言葉と申すものは、必ずこういう害があるときめこんでしまうことができるものではありませんが、世間で『わしは君となるのを別に楽しいとも思わないけれども、ただ何を言ってもわしに反対する者がないのは愉快じゃ。』と申します。善いことを言って反対する者のないのが愉快だというのならけっこうですが、もし悪いことを言っても反対する者のないのが愉快だということになるとあぶない話ですから、これなどは一言で国家を滅亡させ得るに近い言葉ではござりますまいか。」

三一八 葉公(しょうこう)、政を問う。子いわく、近き者説(よろこ)べば、遠き者来(きた)る。

 「説び」「来る」と対句によむ人もあるが、連関させた方が意味が通ろう。

 楚(そ)の大夫、葉公が政治のやり方をたずねた。孔子様がおっしゃるよう、「近所の人民が悦び服するようになれば遠方の者も徳を慕って来り集ります。」

三一九 子夏、キョ父(きょほ)の宰となり、政を問う。子のたまわく、速(すみ)やかならんを欲するなかれ、小利を見るなかれ。速やかならんを欲すればすなわち達せず、小利を見ればすなわち大事成らず。

 子夏がキョ父という地方の代官になったとき、政治のやり方をおたずねした。孔子様がおっしゃるよう、「政治をするには、急いで成績を挙げようと思ってはいけない。また眼前の小さな利益に目がくれてはいけない。急いで効果をあらわそうとすると、順序をあやまったり思わぬ手落ちがあったりして、かえって目的を達し得ない。小利を迫って遠大のはかりごとがないと、天下後世を益するような大事業を戯麗P得ない。」

 子張に対する教訓(二九二)とくらべて身よ。それをその人の短所について教えられるのである。

『新訳論語』 講談社学術文庫

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