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日めくり汀女俳句 №61 [ことだま五七五]

六月二十六日~六月二十八日

        俳句  中村汀女・文  中村一枝

六月二十六日

紫陽花(あじさい)の濡葉(ぬれば)に小さき蝸牛(かたつむり))
      「汀女初期作品」 紫陽花=夏 的牛=夏
 どちらかと言えば、がく紫陽花の方が好きである。野趣に富んでいるところがいい。今、鎌倉は紫陽花見物の客でにぎわう。紫陽花寺として有名な明月院、行列のできるはどの人の波だ。人の列にくっついて、ゆるゆる紫陽花を見る心境には私はどうもなれない。
 庭の一隅に咲く紫陽花の方がよほどいい。それにしても的牛など見かけたことがない
なと思った。蝸牛(かたつむり)を見ても食欲はわかないが、エスカルゴとなると、つい手が出てしまぅ。味の悪いお陰で生命保っております、と日本の蝸牛は言っている。

六月二十七日

ジャスミンの花のひとときわがひととき
       『薔薇粧ふ』 ジャスミンの花=夏
 門の脇のジャスミンがうす紅色の芽をびっしりつけている。植木鉢のジャスミンを地面に下ろすとどんどん伸びて増えた。戦後の女性達のちりちりのパーマの髪そっくりだ。思い切って当たるを幸いなで切りにした。結果はてき面、花が咲かなかった。
 若い頃熟読したフランスやロシアの小説にはライラックやジャスミンの繁みが恋の舞台に登場した。その時から、ジャスミンの甘い香りは私の中で西欧文化への憧れと重なっていた。ジャスミンの香る庭は夢だったのだ。今年は小説のヒロインになれるかな。

六月二十八日

躓(つまず)けば襲ふ麦の香や(螢ほたる)迫ふ
         『汀女句集』 麦=夏 蛍=夏
 尚綱大学文学部長の今村潤子さんが『中村汀女の世界』を出版された。今村さんとはお会いしたことはないが、二年ほど前からの知り合いである。
 サブタイトル、「勁健(けいけん)な女うた」。うまいタイトルだとまず思った。勁健という言葉、初めて知った。勁はつよい健やかという意、まさに汀女を言い得て妙である。
 年代ごとの句集に合わせて例句をあげ、丁寧な解説が親切。俳句素人の私も教えられた。これから俳句を始める人、初心者には格好の手引書だ。心のこもった労作だと思った。

『日めくり汀女俳句』 邑書林

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