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日めくり汀女俳句 №59 [ことだま五七五]

六月二十日~六月二十二日

         俳句  中村汀女・文  中村一枝

六月二十日
豁然(かつぜん)と山も目覚めぬほととぎす
          『薔薇粧ふ』 ほととぎす=夏
 衆院選だという。選挙って嫌いじゃなかった。朝方までテレビにかじりついて開票速報
を見ていた。いつかは、何かが変わるかも知れないと期待していた。でも何度やっても夢
はいつも破られた。
 二世議員の立候補がとても多いのだそうだ。若いから活力があるだろうと思っている
と、たいていはカバンや地盤をそのままこだわりもなく受け継いでいく。若い時ってそう
いうできあがったものにはアレルギーが強い気がするのに。今の二世たちはだれも素直な
人ばかりらしい。
 満たされぬ思いを抱いて人は老いる。

六月二十一日
ゼラニウムの窓掠(かす)めしか暁(あけ)の雨
          『薔薇粧ふ』 ゼラニウム=夏
 道を歩いていて門前や塀に花の多いのに驚く。最近は花をただ置くというより、趣向を
こらした工夫が人目をひく。住む人のセンスも人柄もほのぼの伝わってくる。
 以前から謹厳実直を絵に描いたような人、Tさんは種から花を育てていて、家の前には
十以上の長方形のプランターが整然と並んでいる。遊びとか無駄を嫌う性格らしく、プラ
ンターの向きも変わることはない。Tさんの家の前を通ると、私はいつも学校に掛ってあ
った整理整とんの言葉を思い出す。なぜか花もまた真っすぐ行儀がいい。

六月二十二日
紅差せる実梅落ちゐる雨情かな
            『芽木威あり』 実権=夏
 私の酸っぱいもの好きは父親譲りらしい。子供の時から梅干しも好きだった。最後の種
までしゃぶってからからになるまでなめた。
 戦争中、父はフィリピンへ行った。従軍ではなく徴用を受けたのだ。
 戦地にいる父から、梅干しが食べたいという手紙を貰って、私は便箋(びんせん)に梅干しを二つ貼(は)りつけた。
「一枚の梅干の押花届いた。一つはお父さんが喰べ、残った一つをお友だちにあげたら、
これは珍しい梅干ですねといってみんなうまそうに喰べた……」。
 父からのはがきである。

『日めくり汀女俳句』 邑書林

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