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バルタンの呟き №74 [雑木林の四季]

    「日本モデル?」

                   映画監督  飯島敏宏

 ようやくのことに、緊急事態が解除されましたが、いや、実に長く感じたコロナ蟄居生活でした。いやいや油断禁物、まだ過去形では語れない状況です。
 俄かに始まったStay homeだのテレワークだので、都心に通いつけていたサラリーマン諸氏とその家族、特に、三度々々夫の食事の支度をして、女子会も儘ならなくなっていた奥様方や、いったい学校が休みなのかどうなのかさっぱりわからない子供を抱えた方々、飲食店その他ストップのかかった方々などなど、いや、他人事でなく、全てのイベントから映画館までストップが掛かった僕自身、色々な影響を被っているのですから、現役の方々にとっては、死活問題の休止符です(現在形!)。
 2月3日に横浜港に入港した豪華クルーズ船ダイアモンド・プリンセス號によって日本に持ち込まれて以来、3か月以上も僕たちの生活にストップモーションをかけ続けた新型コロナウイルスですが、いまだに初発も実体も解明されないままに、瞬く間にほぼ全世界に蔓延して、おそらく地球人類が今までに経験したことのない恐怖と混乱を引き起こしてしまったわけですが、日本の場合は、クルーズ船の他に、中国の巨大人口の大移動と言われる春節にも当たって、国際空港その他でのいわゆる水際作戦の不手際や、諸官庁の縦割り所管の連携ミスや、医療体制その他の準備不足のために、後手々々の対処となって、ついに東京はじめ京阪神の主要都市がパンデミックの状態に陥ってしまった過程は、此処でおさらいするまでもなく、皆さんがご承知の通りです。
 「Stay home!」を合言葉に、どうにか厳格なロックダウンをせずに自己規制に出た東京都や、他県からの来訪を拒絶する「神奈川県など、司令塔の逡巡に惑わされて停滞を余儀なくされた諸官庁に任せずに、おのおの独自の防護策を講じ始めた自治体に後を押されるように重い腰を上げた総理府から、遅ればせながら全国的な蔓延防止のために、4月15日に安倍首相によって発令された緊急事態宣言が、この5月26日に、漸く解除されたという訳です。感染者がピークを越したという判断に「専門家の方々のご意見を踏まえて」という言葉があえて添えられていたのが、その根拠なのでしょうが、なにか、足もとの危うさを感じます。まさか産業経済界や飲食業界からの圧迫に耐えかねて、苦し紛れに解除に踏み切ったわけではないことを祈ります。
 しかしこの一時停止期間には、まあいろいろありましたね。一つ一つの出来事に対して呟いていたら、頁がいくらあっても尽きることがありません。三蜜、不要不急、接客を伴う飲食、濃厚接触、social distanceなどなど、キイワードだけでも大変です。その中でなんといっても突出した不可解でありナンセンスな出来事は、アベノマスクではないでしょうか。その膨大な備蓄の発表から、製品の衛生問題発生、回収点検に要する膨大な費用、さらに発注疑惑と限りなく週刊誌等の見出しを賑わせ、苛立たしくなるほどの時間をへた挙句の果てに、すでに市場が充足した後に配布された品物といえば、北野武氏の「眼帯か?と思ったぜ」の言葉が受ける程度のものだったり、ぬぐい切れない衛生上の不安等のために、むしろ返上したいという気持ちの表れとして、医療従事者の皆さんや必要とされる方々への寄付募集箱に膨大な数が集まるという珍現象まで引き起こしているようですが、中でも秀逸なのは、某紙で目にして思わず唸らされた風刺川柳に、アベノマスクと題して「目隠しや、森、加計、桜、黒川さん」でした。
 次点といっては申し訳ない気もしますが、「全国民一律各自10万円支給」でしょうけれども、最近安倍総理が頻発する「スピード感」を以て実行しても未だに、完結するどころか、オンライン申請は手間暇かかりすぎて、振出しに戻る気配です。テレビニュースでも、ややもすれば、親しみやすいキャッチフレーズを交える元キャスター小池東京都知事にスペースを奪われて、国民の皆様にお願いします調で、語り掛ける風になっていました。

 そんな状況でありながら、5月26日の緊急事態解除の記者会見では、これまでは、国会でも、小さめで時折ずりあげつつも常に着用し続けてきたアベノマスクを外した安倍内閣総理大臣が、大きく胸を張って、左右の記者団に向けて身振り手振りのポーズを取りながら、朗々と、(時折目元のプロンプタ―に目を走らせながらも)いつもの慣用句をまじえリズムをとる演説調で、見違えるように宣言したのです。
 「感染者数、死者数ともに、最小限にとどめて、しっかりと新型コロナウイルスの流行を抑え込んだ実績は、将に、日本モデルとして世界が注目する評価を得ました・・・国民の皆様も一致協力して、これからの新しい生活に・・・」
 将に、主要先進国首相として、堂々とアベノマスクをはずして、誇り高く世界中に宣言する晴れがましい思いが感じ取れました。
 確かに、安倍総理が示したように、罹患者数、死亡者数は、中国、欧米その他に比して非常に低い数値です。
でも、海外のメディアが不思議がっているのは、日本が行っている新型コロナ対策は、感染都市の封鎖一つをとっても、アメリカや欧州各国、韓国と比較比して、一目瞭然のルーズなもので、検査機器でさえ十分ではない筈なのに、欧米のような医療危機に至らずに、なぜか、よい方向に向かっている事実です。
 「不思議の国、ニッポン」を解くカギは、決して、安倍内閣が、実績と誇るような、システムとして確立された「日本モデル」ではないことだけは、事実です。
 一党独裁政権でもなく、軍国政権でも、王制でも宗教政権でもないニッポンが、外国から見て、なぜ整然として、大きな経済的犠牲を払いながらもさしたる波乱もなく行動規制することができたのか。これは総理が誇る政府の「実績」ではないと、僕は思うのです。選挙にも、議会対策にも拘束されずに、ひたすらに市民、県民の安全に専念した各都道府県地方自治体の知事、市長の努力もさることながら、一般国民の良識、モラルの高さが、「日本モデル」を齎したのです。逆に言えば、いまやそれだけ政府を信頼していない、自分たちで何とかしようという意欲かもしれません。いまや日本国民的存在となった「チコちゃん」は知っているに違いありません。
 僕、バルタンは、敢えて、呟きます。
 これこそが、70余年を超えた戦後民主主義教育の成果です。日本の民主主義は、獲得したのではない、脆弱な、と、しばしば非難される、「与えられた民主主義」かもしれません。でも、戦後70年以上にわたって、今生存する大多数の日本人に染み付いた教育が、絆とか、繋がりという言葉で表される公民(社会人)を生みだしたのが事実です。戦時中僕たちが幼児ころから受けた全体主義の少国民教育ではなく、戦後の新憲法のもとに個々の人格を保証する社会の一員としての自覚を促す教育が国民に根差した、外国から見て不可思議な公序良俗が、成果を上げたのではないでしょうか・・・「国民の皆さんが、一致一団となって、これからの新しい日本・・・」ではなく、「一人一人が、自由に、のびのびと暮らしていける社会を目指して・・・」といきたいものです。そのためには、自由と、規律をしっかりと学んで行くことが、将に大切だと思うのですが・・・


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