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検証 公団居住60年 №56 [雑木林の四季]

第三章 中曽根民活~建替えに対する居住者の困惑と抵抗

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

4 建て替え事業の変遷と制度の手直し 2

 第2期は、まさに「転換期」、1990年にバブル崩壊がはじまった。90年度になって建て替え着手の実績ははじめて前年度を下回った。初年度の86年537戸についで、2,410戸、5,135戸、8,144戸と飛躍的に伸びた実績も、90年度には7,503戸に落ち、それ以後ずっと減少傾向をみせている。戻り入居者が公団の予想をこえて多く、団地内の仮移転先住宅の確保に困難をきたしたことと、建て替え対象がしだいに大規模団地となり計画策定に時間を喫したことが主な原因と『住都公団史』は書く。このため予算上の着手計再戸数は89年度、90年度の各1万戸から91年度には8,000戸に減少、それ以来、住都公団期の99年度までは8,000戸としている。
 建て替えの建設戸数のピークは93年度、5,901戸に達した。その後の実績は99年まで、着手で各年度平均概ね6,500戸、建設・供給戸数は4,000~5,000戸台で推移する。
 公団の住宅建設および供給戸数は、年度により若干の増減がみられ、全体としては伸び悩む(分譲建設戸数の減少、とくに95年度以降激減)なかで、建て替えが公団全体の住宅建設全体のなかで占める割合は着実に大きくなっていた。93年度の5,901戸は賃貸住宅建設の55.6%を占め、公団全体では38.4%の事業量である。第2期終わりの95年度は、分譲建設の激減がはじまった年度でもあるが、供給戸数でみると賃貸建て替えが5,031戸で43.6%、全体でも35.1%を占める。
 『住都公団史』は第2期の特徴に「建て替え反対の動き」をくわえている。建て替えの抜本的見直しをもとめて自治協は、事業開始とともに立ち上がり、多様なかたちをとって運動を展開した。ここで公団がいう「反対の動き」とは、主として裁判となって現われた事例をさすのであろう。自治協は建て替えについては、あくまで公団との話し合いによる解決、合意にもとづく事業の推進を基本方針にしており、公団にたいし明渡し請求訴訟には強く反対を申し入れてきた。
 建て替え第2期の自治協運動の特徴としては、各団地自治会・自治協が「伸て替えの抜本的見直しを求める7項目」(1986年)を中心にねぼり強く要求し国会・地方議会にも働きかけてきた運動の成果が制度の創設、措置の改善として実りはじめたことがあげられる。建て替え事業が制度の一定の手直しなしには従前居住者の抵抗も強まり進まなくなってきていた。居住者の切実な要求と建て替え反対の運動をまえに、政府もこれを無視しえず、さらに事業を推進するため92年6月に「公共賃貸住宅建替10カ年戦略」を定めた。

 第3期は、「新公団への橋渡し」期と位置づけているように、住宅・都市整備公団を廃止して新たに都市基盤整備公団が設立されるまでの期間である
 このころ公団住宅は、家賃も分譲価格も高く末入居住宅や空き家が増えていた。公団全体として建設戸数の減少はやむなく、とくに分譲建設は激減せざるをえない情勢にあった。建て替えの着手実績も減少傾向にあったが、建設では5,000戸台が98年度までつづき、公団全体にとって建て替え事業の貢献度は大きかった。
 この期の特徴としてはかに、従前居住者にたいする家賃減額措置の改正があげられる。建て替えは完成したが未入居住宅が増えはじめていた。従前居住者の戻り入居の確保も、建て替え事業の行きづまりを打開するうえで見直すべき方策であった。
 従来は当初の7年間7階段減額方式に加えて、10年間7階段減額、10年間定額減額の3方式であった。これを97年度に若干の手直しをし、98年度以降に事業着手する団地の従前居住者を対象とすることにした。公団は「より最期的かつ安定的な家賃負担とするよう配慮した改正」と説明しているが効果はなく、あまりの高家賃のため戻り入居者の退去、空き家の増大はつづいている。
 住宅公団の全期間(1985~99年度)をつうじての建て替え事業実績は、着手I52団地73,533戸、用途廃止47,700戸、建設は賃貸43,987戸、分譲4,486戸(計48,473戸)、管理開始は賃貸34,168戸、分譲4,015戸(計38,183戸)である。公団は「高家賃化にともなう未入居住宅の増加」を認めている。賃貸住宅の建設と管理開始の戸数の大きな開きは、建設しても入居募集できない、募集しても入居者がないことを意味しているのだろう。高齢になって住みなれた団地を追い出された人たちの思いははかり知れない。


『検証 公団居住60年』 東信堂


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