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批判的に読み解く歎異抄 №4 [心の小径]

 1、「悪人正機」(第三条)の問題

         立川市光西寺住職  寿台順誠

(1)「悪人正機説」の提唱者(定式者)-親鸞?法然?唯円?覚如? 2

 さてしかし、こういう読み方もできる反面、先ほど触れた法然説を採ると次のようになります。

「『善人なはもつて往生をとぐ、いはんや悪人をや。』しかるを世のひとつねにいはく、『悪人なは往生す。いかにいはんや善人をや』。(中略)よって『善人だにこそ往生すれ、まして悪人は』と、仰せ候ひき。」と云々

と、はじめの「善人なはもつて往生をとぐ、いはんや悪人をや。」と、最後の 善人だにこそ往生すれまして要人は」の二つの文は法然が言ったことだけれど、その間の言葉と末尾の「(法然が)仰せ候ひき」は全部親鸞が言ったことになります。そしてこの場合、三条全体を「 」で括って最後に「と云々」と補った方が分かりやすくなると思いますね。
『歎異抄』の一条から十条までの親鸞の語録を集めてあるところを「師訓篇」と申しますが、「師訓篇」の各条文は、三条と十条を除いて、全て「と云々」で終わっています。「以上のこと等々を親鸞聖人が仰いました」というわけです。
 ところが三条は「と云々」で終わっていません。「仰せ候ひき」で終わっています。この場合、「仰せ」になったのは誰ですかね。一般には「親鸞聖人が仰せになった」と唯円が書いていると考えてきたと思うんですが、実は他の条文は全部「と云々」となってんだから、ここには「と云々」を補ってみるべきだという読み方をすべきではないかとも言われています。そうするとここは「法然上人が『善人なほもつて往生をとぐ…』等と仰せ候ひき等々と親鸞聖人が仰しゃいました」と唯円が書いていると読むべきだということになりますよね。

 皆さんこんがらかってきたようですので、ここで少し脱線しましょう。宗教的なテキストを読むとき私たちは往々にして気持よくなりたいのですが、それはダメなんです。気持よくなって「ああ有難い、有難い」と言っちやっては、本当に読んだことにはならないですね。宗教的なテキストっていったって、他のテキストと同じようにやっぱり疑問を持って読まなきゃダメです。辻褄が合わん、なんでこうなってるのだろうと。皆さん、例えば若い頃にラブレター貰ったら一字一句解釈しながら読んだじゃないですか。これどんな意味なんだろうつて。「裏の庭で待ってるよ」ってあるんだけど一体どんな意味だろうとか一生懸命考えるじゃないですか。人から手紙をもらったら、みんな必死になって考えるでしょう。こんなこと書いてあるけどどんな意味なんだろうかって。それと同じことだと私は思うんです。重要なものだったら必ず考えるはずです。それと同じように読んで疑問のあるところ、意味が分からないところは放置しとくのじゃなくて考えなきゃいけない。面
倒臭いことを申していますけど、こういう面倒臭い手続きが宗教的なテキスト、いや宗教的なテキストに限らずテキストを読むときには必ず起こってくるんです。こんなことは別に学者だけがやっている訳ではありません。

 そこで、ここは「仰せ候ひき」となっているのですが、一体誰が何を仰せになったのかというと、最初の読み方のように「善人だにこそ往生すれ、まして悪人は」と親鸞聖人が仰せになったと唯円が書いているとも読めるし、後のように「と云々」を補って読むと、いや実は法然上人がそう仰ったと親鸞聖人が仰っている、と唯円が書いているとも読むことができるわけです。結論を言えば私は後の「と云々」を付ける説を採っています。
 そんなことで、悪人正機の提唱者(定式者)は三説出せるわけです。法然か親鸞か唯円か。ただもう一つ「悪人正機説」と言う時、私は覚如が定式者だと申し上げたいのです。というのは『欺異抄』の三条の中には一つも「正機」という言葉が出て来ませんが、親鸞の曾孫・覚細の文章には次のようにあるからです。

これも悪凡夫を本として、善凡夫をかたはらにかねたり。かるがゆゑに傍機たる善凡夫、なほ往生せば、もっぱら正機たる悪凡夫、いかでか往生せざらん。しかれば、善人なをもつて往生す。いかにいはんや悪人をやといふべしと仰せごととありき。(覚如『口伝紗』第19条。本願寺派『浄土真宗聖典』908ページ、大谷派『真宗聖典』673ページ)

 ここで「正機たる」と言う言葉を使っています。我々が一般に「悪人正機説」と言うとき、『欺異抄』三条のことを言ってるんですが、三条自体には「正因」はあっても「正機」という言葉はありません。それを「正機」という言葉に置き直して「悪人正機説」として定式化したのはやっぱり覚如なのだろうと私は思っています。

名古屋市中川区 真宗大谷派・正雲寺の公開講座より

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