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日めくり汀女俳句 №55 [ことだま五七五]

六月八日~六月十日

         俳句  中村汀女・文  中村一枝

六月八日

雷鳴に居(お)り処(どころ)なく坐りけり
            「汀女初期作品」 雷=夏
 八ヶ岳高原に三三平方メートルほどの小さな家を持てたのは、ただ汀女のお陰であった。他のどこよりもここが好きです、と断言してしまった私の気持ちを汲み取ってくれた。家は汀荘と名づけている。
 この家に汀女を一度も迎えることができなかった。家の様子をしきりに聞きたがった汀女に、夫は詳細な家の写真集を作った。
 久しぶりの山暮らしにのんびりしていて気がつくと電話が不通、この間の大雷雨の影響らしい。大草原の小さな家を気取って電話は不要と、うそぶいてみたが、実はあわてた。

六月九日

樫若葉夏はじめての雲が湧き
            『花影』 樫若葉=夏
 一昨年、三十年のペーパードライバーを返上、と言えば聞こえはいいが、練習に行った教習所では散々の評価だった。気弱そうな教官氏からは「お願いスピード、もっと出して」と懇願されたし、「あんたやめた方がいいよ」とにべもなく言い放つ人もいた。
 夏に山荘へいくと、車は必需品。上り道が辛くなった夫のためにという涙ぐましき愛情物語が秘められている。
 車を動かす快感は確かにある。ディズニーの漫画のドライバーに似た心理的変身、目と、耳と神経をフル回転させて、リフレッシュ効果もある。

六月十日

汗ばみて来て香水のよく匂(にお)ふ
        『春雪』 香水=夏 汗ばむ=夏
 すれ違ったとき、仄(ほの)かにに香水の残り香が。そういう香水のつけ方にひかれる。
 一メートルも先からぷんぷん、きつい香りが漂ってくると、大てい濃い目の化粧の目立つおばさんだったりする。体臭の薄い日本人は平均的に淡白な香りを好む。
 晩年の汀女は、特に腸の手術後香水を使っていたようだ。引き出しの中に香水の壕がいくつもあった。汀女が見苦しかったり、だらしなかったりという姿を私は知らない。年をとって身仕舞を保つのは、かなりの努力と精神力がいると判ってきた。

『日めくり汀女俳句』 邑書林

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