SSブログ

バルタンの呟き №70 [雑木林の四季]

「大風が吹くと・・・」

                 映画監督  飯島敏宏

 大風が吹くと、埃が目に入って盲人が増える、盲人が増えると三味線を弾く人が増える、三味線を弾く人が増えると(三味線の胴には猫の皮が張られるので)猫が減る、猫が減るとネズミが増える、ネズミは木桶を齧るので、ネズミが増えると桶屋が儲かる。つまり「大風が吹くと桶屋が儲かる」という理屈の古い諺があります。ある物事が思わぬ方向に影響を及ぼすさまを顕した古い諺です。差別を含む諺なので、今はほとんど使われることがなくなりましたが・・・
 いま、世界中に、新型コロナウイルス(covid-19)の伝染という大風が吹きまくっています。「免疫性の落ちた高齢者」であり、「肺炎の経験者」である僕には、公ばかりでなく、家族からも、厳重な禁足の要望が出て以来、何時になく、テレビ、ネットの報じ続けるコロナ関連ニュースに見入っている次第ですが、都市閉鎖の機会を失した上に、医療崩壊にまで陥ったイタリアからの映像で、夕闇迫る全く人気のない街に、延々と列をなして、粛々と進んでゆく、棺を積んだ車の列の映像に重なる、「棺桶の製造が間に合わない」というアナウンスに、ふと、黒沢映画にあった、宿場町で凄惨な斬り相いが始まるのを控えて、せっせと棺桶作りに励むアイロニカルな笑いを誘う場面を連想してしまったのです。

 中国華南省の海鮮市場で獣から人へという伝染が発生したといわれる新型のコロナウイルスが、中国湖北省の人口900万の大工業都市武漢の生鮮市場近くの病院で、それと疑わしい事実を担当医師がツイートしたのを、中央政府が隠ぺいした(のか、軽視したのか)デマ扱いした為に、折からの春節休暇で民族の大移動とさえ言われる大群衆の拡散が始まり、中央政府が、パンデミックに陥った武漢全市を都市閉鎖した時には、国内はおろか、世界中に拡散してしまった、と言われています(真相は、米兵が持ち込んだのだ、という説もあるようですが)。
 当初、「臭いものには蓋」と出た習近平中央政府でしたが、治療にあたった医師が自分自身重篤なコロナ肺炎に陥りながらネットに上げた訴えが流出し、「悪事千里を走る」で、世界中にその事実が知れ渡ったのです。独裁政権のみがなし得る人権無視に近い高圧的な都市封鎖で、武漢の伝染をほぼ封じ得たと見た政権は、「君子は豹変す」かの病院の医師の患者の救命に自身の命をささげた死を悼み、民心に共感の思いが伝播抑えがたく湧き上がった彼を、一転、英雄として讃えて、民心の鎮圧と、自らのコロナ鎮圧の実績として、誇ったのです。
 「明日は我が身」と知らぬ安倍日本は、新型コロナウイルスを積んで入港した巨大クルーズ船ダイアモンド・プリンセス號を横浜港に留め、わが国の優れた医療体制と、災害出動に熟練する自衛隊の出動で、未知のコロナウイルスを容易に封じ込めると過信して、今ぞ国威発揚とばかり「多寡をくくって」かかったのですが、あくまで外国船籍ですから、患者の処遇その他船内患者管理や行動は、おいそれとは行きません。一方、対外的には、日中首脳関係の良好をアピールして、訪日を延期した習近平に配慮、武漢、湖北省のみを入国拒否の対象に留めて、「金持ち喧嘩せず」とばかり、大量の防護服やらマスクやらを中国に送るなどして、「我が事なれり」としていたのです。
 ところが、「上手の手から水が漏れ」て、クルーズ船の封じ込めに失敗して、国内に二次感染者が出始めたところへ、春節到来で中国、香港その他からの訪日客がに加えて、想定外のスピードで惨憺たる状況に陥った欧州各地から帰還する邦人やらが、空港での水際作戦のルーズさから、ついに日本国内に感染経路不明の罹患者が出るに至って、あっという間に最早パンデミック・・・「わたくしたちは一致協力、国難としてこれに当たらなければなりません」ここまでは、連日テレビその他で皆さんいやというほどご承知のとおりです。

 さて、日本の首都東京は、いよいよ、春本番です。「都ぞ花のさかりなりけり」春といえば、入学式、入社式です。そして、桜です。問題は、その桜です。森友学園と桜は、安倍政権の鬼門です。コロナとオリンピックという「国難」に臨みながら、国会では、その追及が、延々と続きます。一方、急を告げるコロナリスクでは、事態への対応を焦って、全国的に催事の中止勧告、公立高中小学校の休校、卒業式の中止などを閣議決定して実施したところが、東京都とは、地理的にも気候的にも事情が違う各地方自治体からの反発に遭い、文字通りの「朝令暮改」で、各自治体の首長に委ねて、実施の方向という始末です。もともと南北に長い列島日本を首都東京の基準で一律に扱うのは、ナンセンスとしか。
 さて、ここへきて、「漁夫の利」を得たのは、小池百合子東京都知事ではないでしょうか。進学、卒業、入学といった大事な時期に当たる「全国の学校」を、休めと言ったり、いや、やはり、それぞれ方法を考えて、学校関係諸行事は行ったほうが良いと、口に入れてしゃぶっているうちにころころ色が変わる「変わり玉」飴のように変節したり、二言目には経済、経済で、それも大企業目線の経済ですから、民心には響きません。庶民対象で持ち出した生活保障給付と、需要の活性化の両立を謳って登場しかかった飴ん棒も、おさかな券、お肉券・・・でないと「貯蓄に回ってしまうから」という国民不信のどうどう巡り。しかも、もともと全地球的な環境、気候変動とアメリカを主体とするテレビ事情で無理が生じているうえに、コロナショックに揺さぶられる以前から、季節的な無理のある2020東京オリンピック・パラリンピックを、自らの政治日程に合わせることに汲々とする安倍首相の、「まさに・・・でありますから・・・しっかりと」と、身振り手振りでの決まり文句でつなぐ、なかば実績吐露のメモ読み演説、答えぬ会見に飽き飽きしているところへ飛び出したのが、久方ぶりに、マイクを並べてテレビ画面に登場した東京都知事小池百合子氏の「こういうことでございますから、都民の皆様も・・・」という、東京パンデミック、さらにオーバーシュート(手のつかない急激な伝染)、医療破綻の回避のための「お願い会見」です。
 メモを読み続けるだけではない、的確な準備の整ったグラフ画面、マイクやカメラに向けた(視聴者に向けた)目線と、庶民的な美しい言葉遣いが、いまや、「タカビーで嫌い」と言っていたうるさい婦人層をも、しっかりと捉えたばかりか、「若い元気な方々が、加害者となることもありうる」という厳しい指摘も、視聴者との並行視点で、「・・・お願いします」と結んだものです。コメントを、若者たちがどう受け止めるか。「ご協力いただいたこの土曜、日曜の花ざかりの盛り場は、おかげさまでほぼ人混みもなく・・・お礼申し上げます」と、さらに、「今後も、ぜひ、換気の悪い蜜閉空間、多くの人の密集場所、近距離の密接、この三蜜を避け続けて欲しい、夜の外出で伝染の危険の多い接客を伴う飲食店、クラブ、若い方々の利用度の高いカラオケ等の補償は、国にお願いします」。三蜜。キャッチフレーズも、3本の矢よりもわかり易かったのです。
 そして、「瓢箪から駒」です。それにしても、この時期、狙ったように飛び出した安倍首相夫人昭惠さんの、咲き乱れる桜を背景に、アイドルだの友人だのらしき人々に密接に包み込まれた笑顔写真のレストラン。あれは、庶民が日常に訪れるファミリーレストランや横町の洋食店感覚と大違い。何かの時に、お出かけで行くことがあるかないかのレストランでしょう。「レストランに行ってはいけないという事ですか!」と国会で声を荒げる、安倍首相の庶民感覚の疎さと引き比べて、「ということでございますから、この週もお願いいたします」と、ちゃんと、「自分の言葉」それも美しい日本の言葉で伝えた小池知事に軍配を上げられても、「右も左もの皆様。差し違えではありますまい・・・」
 足止めを食らって、テレビに噛り付いているここ一週間の感想です。


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。