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検証 公団居住60年 №53 [雑木林の四季]

第三章 中曽根民活~建替えに対する居住者の困惑と抵抗

    国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

3 建替え団地の苦難 2     

 柳沢団地
 柳沢団地の場合の特徴の一つは、市長が保谷市内の東伏見、ひばりが丘を加えた3団地全体の計画提出を公団に求め、その間に市と自治会が話し合い、市が居住者の意向を汲みとるなど、建て替えについて早い段階から市との関係がつくられていた点である。
 1988年7月に公団から自治会に申し入れがあり、9月の居住者説明会開催までに6回の交渉をもった。事前交渉のさいも説明会後も最大の難問は建て替え後家賃の高さであり、3DK住宅の平米単価で説明会当時の636円が1,954円と3.08倍にはね上がる。それだけでなく公団のあこぎさは、いまの住宅を取り壊し、建て替えて家賃を3倍にもすると9月に発表しながら、取り壊す住宅の家賃を10月から第3次家賃いっせい値上げにあわせ5,000円値上げすると通告してくる、そのやり口にも見られた。この二重の不当に抗議をして10月からの値上げは2年間猶予させた経過がある。
 第1期工事の建て替え後家賃が2DKで101,000円、第2期の94年公募家賃は146,500円となる。戻り入居初年度65%の減額があるとはいえ毎年約1万円ずつ上がって8年目には公募家賃と同額になる。そのまえに払えなくなり、再退去をよぎなくされるとの不安は消えない。そのときはもう公団の措置はない。低所得高齢者世帯への特別措置は5年で打ち切られる,
 公団の計画戸数と居住者の規模別希望戸数に、公団の思惑と居住者の願いの違いがくっきりと表れている。lDK192戸と2DK320戸の団地を建て替えて、1DK、2DKをそれぞれ20戸、110戸に縮小、3DK、3LDKを220戸.200戸建設する計画にたいし、説明会から1年たった時点での申し込み世帯数は、1DKには2倍の40戸、2DKは計画に近い106戸、3DK、3LDKは31戸.48戸と計画の2割に充たない。たとえ狭くても、住みなれた地の、長年つちかってきた隣人関係のなかに戻りたいとの願いが痛切に感じられる。従前居住者が戻り入居できない高家賃の住戸を公団は建てる。緑をけずり高層化してつくりだした敷地に手っ取り早い資金回収目当ての分譲住宅を110戸もつくる、賃貸に戻るより分譲に希望者が多い理由の一つは、賃貸住宅の家賃のあまりの高さにあるだろう。
 去るも地獄、戻るも地獄。他団地への本移転希望者の移転先は多摩でも家賃値上げ時につねに最高額となる団地が多く、移転先でもやがて家賃が上がる不安があった。
 思いもかけず公団から迫られた生涯の一大事をまえに右往左往しているうちに1年がたち、公団の「分室だより」は、期限内に一時賃貸借契約と覚書を取り交わさないと、本移転・仮移転先住宅のあっせん、家賃の減額措置、移転費用の支払い等が受けられないことを書き立てる。団地自治会は役員の引き受け手がしだいに減り、運動が思うにまかせないことを居住者に率直に訴えながら、歯を食いしばって全力をつくしている役員たちの姿が痛ましくもあった。


『検証 公団居住60年』 東信堂


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