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対話随想余滴 №33 [核無き世界をめざして]

余滴33 関千枝子から中山士朗様  

           エッセイスト  関 千枝子
 
 中山さんも、「乾燥期」で湿疹などお悩みのようですが、私も暮れから蕁麻疹が二カ月も続き、本当に困りました。私は子どものときから蕁麻疹体質なのですが、こんなに長く、しかもひどいのは初めてです。しかし、蕁麻疹で死ぬことはありませんし、おおらかに生きたいと思います。中山さんの痒さが、じんましんか、単に老人性の乾きから来るかゆみか分かりませんが、どちらでも、蕁麻疹の薬・抗ヒスタミン剤を飲むといいと思います。
 私の経験では、かなりかゆみが軽くなります。ヒスタミン剤は、医師の診断書がなくても普通の薬屋で買えますし、医師の話では抗ヒスタミン剤は飲み続けても悪いことはなく、花粉症にも効くそうですから。昔、年寄りは、老人性の皮膚の乾きに「孫の手」と称するもので、ひっかいたのですが、ひっかくといいことは何もないと思います。とにかく一時でも薬で抑えるのが一番です。
 それより心配なのは、入浴しないことです。これはいけませんね。私は毎日入浴します。足の具合で風呂桶に入るのが難しいので、行政の介護の方に相談、風呂桶に入るためのボードのようなものを使い、入浴します。暖かい湯に入るのが一番の健康法と思います。
 一人で入浴中の孤独死が怖いとありますが、一人暮らしをしていれば孤独死は仕方ないこと。一人暮らしになったのが運命と、思うしかないのではないでしょうか。
 ソフアに座っていても、楽しくテレビを見ていても、急にガクッと来ることはあります。むしろぐずぐず長患いして皆に迷惑をかけて死ぬより、いいではありませんか。風呂場の死ですが、一人暮らしでなくてもありうることで、私の知っている方、娘婿と飲んでいて、「風呂に入る」と言いだし、風呂に入った。婿は一人で飲み続けていて、ちょっと遅いなと思い、行ってみたら彼が死んでいた。心臓麻痺か何か起こし溺死だそうですが、婿も目覚め悪いし、ほかの子どもも、気づくのが遅かったとぶつぶつ言い、その後、関係がまずくなったとかで、難しいことです。娘婿も悪げがあったわけでなし、気の毒です。私は、風呂場で死ねば、体は奇麗になっているし(あとの手間はなく)、呑んでご機嫌よく、そのまま亡くなったわけで、いい死に方じゃないかと思ったりするのですが。
 入浴中の孤独死を恐れ、行政の施設にふろ場を作れなど運動しているところがありますが、私は湯冷めするたちで、遠くに行くなどまっぴらだと思います。孤独死がいやならひとり暮らしを止め施設に入るしかありませんが、私は一人暮らしの方が気楽でいいと思っています。一人で暮らせる限り一人で暮らしたいと思います。

 お手紙にありますように、広島被服支廠の方は、県が「様子見」で、解体先送りになっています。はじめ県は二月議会に出す予定で自民党県議が賛成していたのですが、あまりの反対の多さにびっくり。自民の広島県出身の国会議員からも声があったようで、自民の県議も、これはまずいということになったようです。中山さんにもお願いしました「署名」がものを言ったようで、署名などしても無駄、ではなかったのです。よかった、と思います。これから論議がいい方に向かいますよう祈っています。
 さて、世間は今新型肺炎コロナウィルスでほかのニュースが消えてしまったような感じですが、ほかにも心配なこといっぱい起こっています。 核に対する世界の動向、アメリカのトランプの動きなど恐くてしかたがありません。お手紙にもありました、潜水艦への小型弾頭など腹立たしいばかりです。世界的にもトランプに似た「右」の多さもぞっとしますが。でも、まともな声は多い、核を持たない小さな、弱いと思われている国の頑張り、決してあきらめてはならないと思います。
 そのなかで出来ることをやってゆく、それがどんなに小さなことであっても。
 この間*1高校生平和大使を七年前にやり、今大学院生でブラジルのヒバクシャに興味を持ち、ブラジルに通いながら(これ大変、ブラジル遠くて飛行機代も高いので)ヒバクシャに話を聞いたりしている女性に会いました。高校生平和大使はいいけれど、卒業後、核の問題をどう考え関わっているのだろうと思っていたのですが、こんな大学院生もいることに感動しました。こう言う若い方々がいて「継承」、「核兵器廃絶の闘い」が引き継がれていくのだろうと。
 
 いろいろな会に出ています。コロナウィルスで「不急不要」の会に出るなと言われても
行かないわけにはいきません。報告したいことも多いのですが、この前からスペースがなく書けなかった、山田洋二監督の新しい映画「『男はつらいよ お帰り 寅さん』の話をいたしましょう。行ったのは一月五日今年初めての日曜日、品川駅前品川プリンスホテルの中のシアターです。かなり広い劇場が六つほどあり、それぞれ違う映画をやっています。待合の場に人が大勢いて、正月のためか、子どもも多く、子どもも寅さん見るのかな、と、ちょっと感激したのですが、子どもたちはみなスターウオーズらしく、寅さんの劇場は三分の一くらいの入りでした。いろいろな方の観劇記を見ると、若い人もおり、年配者は、大いに笑い、みな寅さんの大ファンらしかったなど書いてあるのですが、この日の品川のお客様は年よりは多かったが、静かで、少し、違うのかな。
 でも、やはり山田洋二監督はうまいなと思いました。おいちゃんもおばさんもタコ社長も死んでしまっていないけれど、さくらもひろしさんも、タコ社長の娘も皆元気です。
さくら夫婦は昔のくるま屋に住んでいますが、団子屋でなくて喫茶店になっています。
随所に懐かしい名場面が出てきます。「寅さんを一番懐かしがっているのは山田監督じゃないか」と思いました、物語の中心になっているのは満男で、妻は六年前に死に高校生の娘と暮らしています。サラリーマンをやめ、書いた小説が当たったが、まだ次作が書けるかどうかもわからない、という設定で、大作家ではありません。かつての恋人・いずみは欧州に住んでいますが、たまたま仕事で日本に来て、本のサイン会をしている満男とぱったり会います。
 いずみのゴクミ(後藤久美子)は本当に今ヨーロッパに住んでいるのですね、彼女の出演がなかったらこのドラマは成立しない、山田監督は一番初めにゴクミに電話して出演してくれるかどうか聞いたそうです。若い(当時の)俳優たちの中でも、満男(吉岡秀隆)とゴクミは山田監督の「好み」ではないかな、どこかちょっと陰りがあって。
 とにかく満男もいずみも思いは深いが、結局、さよならと別れるしかありません。
 満男の方は、好意的な出版社の編集の女性を満男の娘も好いていて、なにか今後発展しそうな予感を抱かせます。新しい物語はここから始まるという人もありますが、どうでしょうね。
 私は満男は寅さん二世にはなれない。「風天」にはなれない。寅さん流に行きたいと思っても無理です。寅さんを生かしていた職業・香具師(ヤシ)は、もう過去の商売になってしまいました。正月の初もうではまだ生きていますが、どこを見渡してもあのにぎやかな口上で「ちょっといかがわしいもの」を売りつけるヤシの姿はありません、あの商売はこの国ではもう成り立たない。・百貨店も危なくなって、通販、ネット販売の時代ですから。いかがわしくその日その日を暮らす人々、どこへ行ってしまったのでしょう、路上生活?とにかくもはや寅さんは、「生きていくこと不能」の時代です。これはいいことなのでしょうか。満男君は、一応安定したサラリーマンを捨て先行き分からぬ小説家になりますが、それでもそれは「風天」ではありません。寅さんのあの時代は、「はずれもの」もまだ生きられたのですね。そして、高度成長期は過ぎたけれど、豊かになった日本で、人々は、金もない定職も無い、外れている寅さんを愛しました。できたら自分もああなりたいと思っていたかもしれません。
 書き忘れていました。映画の最初に出てくる「歌」、この作品ではサザンの桑田が歌っています。桑田はもちろん成功した大スターですが、あの歌声に、山田監督は、野性味というか、主流でないものを感じて、桑田を使ったのでないかと思いながら聞いていました。
 そしたら、物語の終わりで又出てくる「寅さん」の歌、それは渥美清が歌っているのですよ、桑田は出てこなくて。その意味を深く考えるのはやめて、は気楽に渥美さんの声を楽しんでいました、渥美さんは歌もうまかったな、と思って。

 正月には考えもしなかった新型肺炎コロナウィルスにもう日本中大騒ぎです。大掛かりなイベント中止の首相要請、確かにスポーツなどの大掛かりな催しは、感染を広げる要因になるかもしれませんが、日に日に外に出る人は減り、街はがらんとしています。経済の落ち込みも心配。それにしても人々の浮足立っているさまは。大きなイベントでなく小さなイベントのやめなくてはいけないように言う人も。まさに「自粛の全体主義」ではないかしら。
 予約した本を取りに図書館に行きましたら、カウンターは空いていて予約した本は受け取れるのですが、書架も席もロープを張って締め切り、誰も入れないのです。つまり人を入れないようにしているのですね、街の図書館で何人もの人が集まれるものでもありません。これは行き過ぎではありませんかと言ったのですが、カウンターに一人いる若い職員に言ってもどうにもなりません、しかし、おかしいと思います。
 そんなことを思っていたら、安倍首相の全国一斉・学校の休校の要請です。国に学校の休校の権限はないはずで、それぞれの自治体の教育委員会の権限のはずです。それを何の論議もなく、受け入れる、おかしいのではないでしょうか。この国の民、委縮してしまっているようで、私はその方がよほど怖い、コロナウィルスについていえば、一番の問題は検査体制の遅れ、(韓国に比べ数十倍の時間がかかっていてこれが治療体制の遅れで、問題を大きくしている)のに、それに対して抗議の声が少ないのは問題だと思います。
 実は、三月八日、大阪にドラマを見に行くところでした。大阪のいくつかの劇団が共同して行うので、私は大阪の劇団のかたに、わたくしの「…二年西組」の朗読劇でお世話になっているし、ドラマが国防婦人会を取り上げているのでぜひ行きたいと思っていました。私は国防婦人会が誕生した大阪築港で会結成の十日後に生まれていて、非常に興味があるのです。それが急に中止になりました。大阪ではドラマをやる劇場のすぐ近くで感染者が発生、空気が一変、そこへ学校休校などの安倍の要請。大阪では劇場も映画館などもみな臨時休業に追い込まれているとかで、このドラマも中止です。コロナウィルスを馬鹿にするわけではありませんが、私、この国の民の騒ぎぶり、ウィルスよりこちらの方が恐ろしいです。
 

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