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往きは良い良い、帰りは……物語 №81 [文芸美術の森]

第603回こふみ句会
令和2年(2020年)2月9日    於 TCCクラブハウス

          俳句・こふみ会同人  岩永矢太

 ご亭主の孝多さんが、まだ回復に時間がかかるそうなので、再び矢太が「こふみ句会」をレポートします。お年とはいえ、たかが盲腸の手術ですからね、大丈夫。きっと3月には孝多さんカムバックです!とお約束しつつ、さて2月の例会です。
 嬉しいことに、今月は新入会の二人。初出席してくれました。
 一人は小文さん。本名が文枝さん。‘小文’は中国語で‘文さん’の意だそう。‘しゃおうえん’と発音。で、日本語で読めば‘こふみ’でしょ。こふみ句会の新人だし。と、ご本人のやや迷いを僕が強引に勧めての俳号です。
 もう一人は、すかんぽさん。前にTCC(東京コピーライターズクラブ)で催していた俳句会の会員。カムバックみたいなもんだね。なんて歓迎の紹介をしたあと、あ、まい泉のお弁当が並べられました。

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 まい泉はカツサンドだけじゃないんだよ、と発注した幹事の虚視さんが自慢気です。虚視さんは、料理を撮らせたら右に出るものがいない、と言われたカメラマン。だから自他共に許す食通です。
 こふみ句会の魅力は、お弁当の占める割合が大きい。みんなお弁当を楽しみに出席しています。だから、毎月幹事にお弁当の選択眼と発注力が期待されます。俳句の選句眼への期待と同じです。

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 さて、今月の幹事は、虚視さんと紅羅さん。このふたりは60年前、同じ美大の同級生です、余談ですが。虚視さんはカメラマンになり、紅羅さんは画家になった。どんな青少年だったんでしょうね。そんな二人からの兼題(宿題)はいかにも視覚的な季語でした。
 「春浅し」と「ミモザ」
 「春浅し」は、何にでもつきそうだから、かえって難しいなあ。「ミモザ」といえばミモザ館、ディヴィヴィエの映画があったっけ。などと、それぞれにブツブツ言いながら。
 席題(当日の出題)は。
「白魚」と「春セーター」
白魚としらすはちがうんだ。しらすはイワシやうなぎなどの稚魚だけど、白魚は大きくなっても白魚なんだよ
などと蘊蓄が飛び交うこと、まあ五月蝿いこと!
 さて、時間の立つのは早いもので、あっという間に〆切です。1時間後、こんな俳句たちが誕生しました。清記された用紙のコピーが回ってきました。

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 ◆兼題=春浅し
 切符買う終点は海春浅し  虚視
 静脈の少しゆるむや春浅し  矢太
 こもれびの里武蔵野に春浅し  玲滴
 手まり麩の色おだやかや春浅し  紅螺
 脱ぐべきか着てゆくべきか春浅し  スカンポ
 春浅し蕾(つぼみ)にふうと息かける  尚哉
 ピンク色うすき唇春浅し  舞蹴
 人肌の恋しき夜明け春浅し  茘子
 昼さがりまどろむ猫の春浅し  小文(シャオンウエン)
 春浅し600キロ先に妻がいる  下戸
 日だまりの猫の目細く春浅し  一遅
 ふり向きもせぬ子見送る春浅し  弥生
 春浅しそれが恋とは知らぬまま  鬼禿
 春浅し水面キラキラキラキラリ  珍椿

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 ◆兼題~ミモザ
 姉の骨(ほね)拾いし後(あと)の花ミモザ 茘子
 君逝きし病室の窓ミモザ散る  玲滴
 ミモザ館からハーモニカがこぼれていた  矢太
 ミモザの下でクロワッサンとカフェオレを  珍椿
 踊る君裾も踊らんミモザ色  小文(シャオンウエン)
 二人きりサラダはミモザマティスの切り絵  尚哉
 助手席にミモザの花と潮騒と  スカンポ
 ミモザ降るランナー一瞬遅くなり  虚視
 ミモザ散り神のみぞ知る罪と罰  舞蹴
 溢れる黄ミモザ抱へて花舗の人  弥生
 部屋いっぱいにミモザ君が帰る日  鬼禿
 孫とお揃いミモザ色のワンピース  下戸
 再生の朝びっしりとミモザ咲く道を行く  一遅
 ミモザ胸にカーテンコールのバレリーナ  紅螺

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 ◆席題=春セーター
 検診前チョコの代わりの春セーター  小文(シャオンウエン)
 よく着てた春セーターを解(ほぐ)す  鬼禿
 春セーターパステルカラーの悲しみは  紅螺
 衣替え母の残せし春セーター  玲滴
 春セーターいままだ硬い乳首かな  矢太
 思い切り髪切り素肌に春セーター  虚視
 「おはやう」の春セーターは空の色  スカンポ
 春セーター古りて面影若きまま  弥生
 君は今日フランソワ・サガン春セーター  茘子
 春セーターあの子は小さな風の神  一遅
 ドキュン女のピストル春セーター  下戸
 春セーター編みてはほどき物狂う  尚哉
 豊満な胸の十字架春セーター  舞蹴
 春セーター胸のふくらみそっと触れ  珍椿

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 ◆席題=白魚
 白魚のハの字にの字に椀の中  一遅
 白魚の紅き一点脈打ちぬ  スカンポ
 白魚が四つ手網から高く跳ね  紅螺
 年経(ふ)りて白魚の指なつかしみ  玲滴
 白魚のごとく生きたし五十過ぎ  小文(シャンウエン)
 白魚は漁士の手の中身もだえし  珍椿
 白魚を食って己(おのれ)を透かし見る  鬼禿
 白魚や細胞の声ひそひそと  矢太
 悲しみは白魚のごとき指先(ゆびさき)に  茘子
 ガラス器のしらうおの眼のぬれぬれと  弥生
 能無しと妻に言われて白魚を飲む  下戸
 白魚を飲んで知る殺生(せっしょう)の業(ごう) 尚哉
 妻の形見抱いて故郷の白魚喰う   舞蹴
 白魚やはかなき命喰う覚悟  虚視

 選句戦は、次の5句が短冊天争いを繰り広げました。

ふり向きもせぬ子見送る春浅し 弥生

 が、圧倒的な票を集めて独走ゴールイン!なんと、ほぼこの一句だけで48票獲得しました。本日の天は弥生さん。

切符買う終点は海春浅し 虚視
白魚の紅き一点脈打ちぬ すかんぽ

 虚視さんとすかんぽさんが、弥生さんにちょっと水をあけられての同点。13票差の35票でした。新会員のすかんぽさん、「おぬし、できるな」と一同瞠目。

春セーターあの子は小さな風の神 一遅

 32票で追いかけたのが、一遅さん。もう一句「白魚のハの字にの字に椀の中」もよかったけど「、、、二の字二の字の」の有名例句があるからなあ。

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こんにちは。こふみ句会会員・コピーライターの岡田直也(尚哉)です。
すこしは句会に慣れてきたのか、最近ようやく、「天」をいただけるようになってきました。
やっぱり、うれしいものですね。毎回、短冊や商品用にと、すこし大きめの袋を持って出かけるのですが(笑)、それが空振りに終わらぬよう、精進いたします。

さて、かくいう私、広告コピーの私塾を、全国4か所(札幌・東京・金沢・大阪)で主宰しています。そこで先般、「俳句入門のためのキャッチフレーズを書こう」という課題を、4都市同時に出してみました。いまの若い人たち(全員が20~30代)が、俳句に対してどんな印象を抱いているのか、どんな接点づくりを考えているのかを見たかったわけですが、なかなかいい作品が集まったのです。

ということで、ここに優秀作を挙げてみようと思います。すでにベスト10を選び、講評もつけて塾生にはフィードバック済みですが、ここでは順位をはずし、いいと思ったものを21本、取り上げます。では北のほうから、いきましょうか。

・季節にも、声があることを知りました。 (札・きよみ)
・最近、日本語を書いていますか。 (札・らん)
・恋なんて、17文字にしてしまえ。 (札・ゆかり)
・想像力があれば、17文字は宇宙にもなる。 (札・まい)

・愚痴嫉妬 俳句にすると なんかいい。 (金・いしい)
・人は、心でも旅ができる。 (金・おおや)
・17音の写真。 (金・いく)
・ぼくのほそ道。 (金・にわ)
・季語は、ごちそう。 (金・ゆう)

・「なんかわかる」で、いいんです。 (東・れいな)
・最近、花に立ち止まったのはいつですか。 (東・かの)
・人生は、季節と気持ちのかけ合わせ。 (東・かの)
・気がつけば、スマホから顔を上げる日々。 (東・あゆみ)

・17文字のラブレター。 (阪・あや)
・ことばで絵を描こう。 (阪・あや)
・ひとりごと文芸。 (阪・たっきー)
・季節は、4つじゃなかったんですね。 (阪・あい)
・五・七・GO! (阪・あっこ)
・140字より、スマートなツイート。 (阪・あずみん)
・わかるね、わたしが。 (阪・さき)
・ことかつ。 (阪・さき)

~いかがでしたか? 全体的に見ると、俳句を「じぶんの想いを伝える手段」ととらえる人が多かったように思いました。ほんらいはもっと「つぶやき」に近いものかも知れないのですが、若い人にとって苦吟だの、写生だのは、ちょっととっつきにくいのかも、です。

孝多さん、弥太さん、そして句会のメンバーのみなさん、気に入ったものはありましたか? もしあれば、
「こふみ句会」のキャッチフレーズとして採用していただけたら、なんておこがましいことを考えております。ぜひご意見、お聞かせください。

次回は、塾生の彼ら・彼女らの書いたものを、もうすこし深掘りできたら、などと勝手に思っておりますので、どうぞ、お付き合いを!


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