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バルタンの呟き №68

「ストップ!ザ・マン!」

               映画監督  飯島敏宏

書き出しに、面白くもない告白をしなければなりませんが、いま、僕は、じっと息をひそ
めて、自宅に閉じこもっています。ついにWHO筋から、パンデミック(爆発的流行)という言葉まで飛び出して、安倍総理が唐突に「週明けの 3 月 2 日から春休みまで全国一斉の休校」を要請して、日本中に大混乱をひきおこしている命令どおりに引きこもっている訳でもありませんし、高熱が続いているなどの確たる理由があってコロナウイルスに怖れ戦いているわけでもありません。
が、高齢者、特に、持病を持つ高齢者は、コロナウイルスに侵されると、高い確率で重症
化する、と再々言われると、昨秋に誤嚥性肺炎で入院、その際、当初治療点滴に使われた抗生物質に対する耐性菌があり、効果なく急遽他の抗生物質に変更し、「幸い、これが有効だったから、あっちへ行かずに済んだんですよ。肺炎には、くれぐれも注意して・・・」と、退院の際、レントゲン、CTなどの映像を前に、主治医から冗談混じりに、僕がすでに既往疾患で、片肺飛行状態なのだという事実を告げられているうえに、この令和 2 年(西暦 2020年)9 月 3 日の誕生日には、なんと、自分がその日を迎えるなどと考えてもいなかった米寿を迎えるのですから、既往症があろうとなかろうと、感染すれば必然的に重症化するのですから、怖くないといえば、嘘になってしまいます。コロナを怖れているのも事実です。
一方、「2020オリンピックパラインピック大会で、世界に存在を示そうとした安倍ニ
ッポンは、クルーズ船のダイアモンド・プリンセツのコロナ封じ込めの失策で出遅れた」と、イギリスなどの欧州筋などから厳しく指摘された安倍首相が、唐突的に表明した専横的な宣言、国営都道府県営文化施設競技施設での催事会合の中止、卒業、期末休暇を迎えようという本日からの国公立の全国高等学校中学校小学校一斉臨時休校等々のまったく泥縄的な実施要請は、その実施に必要とする政令や布告の不備はもちろん、まったくの徳政が飛び出したのと同じで、各地方行政の強烈な反発や、関連諸団体、業界の混乱はまさにパニック状態で、新聞、テレビ、ラジオ、ネットその他、すべてが、「コロナ!コロナ!」と、百家争鳴に叫び続けている状態です。
 
「乗り物には乗るな、人混みには出るな」と言われるまでもなく、住民のほとんどが高
齢者になって、人混みどころか、近頃では、ペットのワンちゃんニャンちゃんの吠え声さえ聞こえなくなって閑散と静まり返っているわが街にも出ず、じっと、僕が家に閉じこもっているのは、それとは別の事情があってのことなのです。
いま、僕が、目を凝らせて見つめている、洗面台の鏡に映る僕の顔は、なんというべきか、
例えれば赤鼻のトナカイ、あるいは道化師ピエロ、年配の方にはおなじみの、のんきなトウサン、のような、まん丸に膨れた鼻が、顔の中心にどんと、存在しているのです。禁足令などなくとも、とても人前に出られたものじゃありませんし、口さがない早朝ラジオ体操会の仲間にサトラレでもすれば、格好の話題に上ること必定なので、じっと家に引きこもって息ををひそめているのです。
そもそも、ことの始まりは、片腕の内肘に、ポツリと出た幾粒かの湿疹でした。それが、
有り合せの痒み止めクリームをつけて済ませていた、僅か二三日のうちに、肺炎の予後治療で通院している病院の定期的な血液検査で、日ごろ看護士さんが採血する静脈を取り囲むように増えて、逆の利き腕に針を刺さなければならない程に、盛り上がるほど赤く腫れあがってしまったのです。診断の際に掛かりつけの先生にその症状を訴えかけたのですが、患部を一見した先生は、
「ああ、これね・・・」
特に質問されることもなく僕のデータが打ち込んであるモニター画面に向かい、傍らでP
Cに向かっている看護師さんに薬名を告げながら、
「いつもの薬と、これ、出しておきますから、一日二回、塗ってください」
とおっしゃるので、
(ああ、これは、よくある症状で、大したことはないのだな)
自己診断して、小さなチューブ入りの軟膏に、託して、自宅で、片手間気分で治療にかかったのです。
これがいけませんでした。
なるほど、クリーム状のチューブ入りステロイド軟膏は、よく効きました。痒みは消え、炎症も難なく一両日で収まるかと見えました。ところが、イタチごっこ、というよりも、握ったウナギが、ぬるっと逃れるという風に、治るそばから、そのわきに新しい湿疹の粒が倍増して顕われるのです。小さなチューブは、みるみるやせ細って・・・
週末のことで、病院も休みです、熱を測ると、37 度 5 分、平熱の低い高齢者にとっては、
発熱状態です。思わず総合風邪薬を飲んで、熱い汁気のものを飲み、床に就いたのですが、
夜半に目覚めて熱を測ると、なんと、38 度 5 分!
「ママ!(妻のことです)救急車!」
最近、僕の鼾に耐えかねて、隣の和室に転居しているのです。
声をかけようとして、やめました。喫緊以外の救急車使用は控えて、という要望よりも、救急車未経験の僕には、その後の展開が、恐ろしかったのです。
じっと、一晩、耐えました。
その間に、高熱下の夢うつつは、次から次と、ホラー映画の記憶も手伝って、何ページにもわたるほどでした。
(やや、これはもしや・・・)
疑念の雲が、次々に、湧き上がりました。
もちろん、当初は、肺炎の再発です。が、息苦しさは、ありません。では、
(帯状疱疹・・・いや、痒いけれども、痛みはない。疱疹でもない。帯状でもない)
いつもの通り、軽いほうへ軽いほうへと、誘導連想して、信頼する先生のあっけないほど簡単だった診断の情景を思い浮かべて、風邪薬と、小さなチューブに、託したのです。
翌朝、幸いなことに、熱は、平熱近くまで下がっていました。
(肺炎ではなかった。たった一晩の熱だから・・・もちろん、コロナではない!)
安心してベッドから出ます。
ところが、起き上がって、着替える段になって、
「ああっ!」
びっくり箱を、開けたような騒ぎで、あるいは、パンドラの箱からとでもいいましょうか、
箱に閉じ込められていたあらゆる災いたちが一時に飛び出したように、なんと、ほとんど全身くまなく、湿疹が顕われていたではありませんか。その、痒いこと・・・そして、洗面所の鏡の中で出会ったのが、 顔のど真ん中に膨れ上がった赤鼻のトナカイだったのです。紅を塗ったように真っ赤でした。
特大のマスクを探して、近くの皮膚科が開くのを待って一番に飛び込んだのですが、
(ひょっとして、もしや・・・)
帯状疱疹だのなんだのとの次々の疑念むなしく、
「重大なものではありません。身体用とお顔用と、お薬を出しますから、朝晩二回、塗ってください」
裸になるまでもなく、シャツの裾をめくって背中をちらっと見ただけで、涼しい顔の女医さんでした。
そして、先生のおっしゃったとおり、体の湿疹はすっかり薄く消えて、塗布する薬も、薄いものに変わりました。しかし、赤鼻だけは、断じて居座っているのです。
「あとは耳鼻科さんへいらしてください」
「でも、あの薬で鼻の中の腫れもだんだんに消えてきているのですが」
「あのお薬を鼻の中に塗るようにとは、言いませんでしたから、止めてください」
当院での処置はそこまで、とおっしゃるのです。
昔、町医者の先生は、僕たちの風邪ひきから、耳鼻咽喉、はては盲腸炎(虫垂炎)まで扱ったのに、と思いながら、残り少なくなった塗り薬をつけて、事実、徐々に徐々に軽快するのを、期待しているのですが。
今日で三日、二回目の週末です。
「あ・・・」
そして、今度は、眼です。赤鼻が薄らいできた感じなのに代わって。目の赤さは依然として取れなかったのですが、片方の目が、霞んだ上にピントが合わないのです。そして、額の最上部に、身体部から這い上ってきたように、例の粒粒が這い上っているではありませんか。
という次第で、現在進行形で、僕の恐怖体験を綴っているのですが、
「何が原因で、この病気が発症したんでしょうか」
といえば、
「いろいろ考えられますが、まあ、疲れ、ストレスですね」
という答えが両先生から返ってきました。
コロナも、同じものではないでしょうか。
人類のストレスは、人類が作り出しているのです。災害も戦争も、自然の進行に逆らって、
過剰な経済活動を継続し続ける人類が、自縄自縛で、惹き起こしているのです。
たとえ、コロナウイルスをなんとか、躱すことができたとしても、新型ウイルスは、限りなく人類が造り出すものに耐性を持って発生し続けるでしょう。
「ストップ!」
地球上のあらゆる生命体になり替わって、地球環境を破壊し続ける人類を立ち止まさらせ
るために、コロナウイルスが叫びをあげたのかもしれません。
 
2020 年のノーベル平和賞は、何処の国の宰相名などでなく、過剰経済活動に対して堂々とストップと叫び続ける少女グレタ・トゥンベリさんに!
鏡の中の赤鼻の僕は、頑張っています。せめて何とか微笑を浮かべようと頑張っています。
せめて唇の端にでも・・・と。

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