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対話随想余滴 №32 [核無き世界をめざして]

余滴32  中山士朗から関千枝子様

                 作家  中山士朗

 足のお怪我その後いかがかと案じておりましたが、お手紙を拝見して安堵しております。けれども、決してご無理なさらないように願います。
 私自身もこのところ、心身ともに乾燥期に入ったらしく、全身に湿疹状の痒さが出て何事にも集中力が欠けてしまい、困ったものだと思いながらその日、その日を暮らしております。
 考えてみれば、今年の十一月に誕生日が来れば九十歳になるのですから、致し方ない生活環境なのかもしれませんが、老齢期を実感しながらの生活を送っています。
 先日、私たちの「往復書簡」を読んでくれている知人から、「私生活を味わい深く読ませてもらっています」という葉書が届き、嬉しく思いました。
 そんな訳で、これからも私生活を少しずつ書いてみたいと思っています。
 つい先日、野球の野村監督が風呂場で死去されたということを新聞のニュースで知りましたが、他人事とは思えない事象でした。私は、温泉が出なくなったことが一因ですが、この冬は入浴しない日々が続きました。これは、入浴中に孤独死するのを恐れたからです。温泉地である別府では、十二月、一月に入浴中に人知れず死亡する人が多く、昨年の統計では、一月に一二七人が亡くなっています。つい先日も、マンションで一人暮らしをしている人が入浴して亡くなり、数日たって発見されたという記事が新聞に載っていましたが、他人事ではないと思いながら読んだ次第です。
 それにしても、お手紙を読み終えた時、竹内さんの学習会での話、跡見学園中学二年生の広島修学旅行の事前授業での講演、立川での宋神道さんの写真展に行かれた話はまさに行動する関千枝子さんだと思いました。ことに、「跡見の場合中学二年生、私のクラスが被爆して全滅した時と同じ年です」、この言葉には言い知れぬ重さを感じました。
 また、韓国の元慰安婦・宋神道さんの「戦争がいけねえ、何があっても戦争をしちゃあいけねえ」という言葉に胸打たれました。
 また、このたびのお手紙の中にも、広島の被爆建物である旧陸軍被服支廠の解体計画が触れられていましたが、この件は一部解体の着手が先送りになったようです。二月四日の朝日新聞の記事によると、「全棟保存を求める市民の要望が相次ぎ、県議会からも{時期尚早}との声が上がった」ためとされていました。
 それから数日後、朝日新聞の<折々の言葉>鷲田清一に、

 そうか。廃墟に棲むことを選ぶ人がいてもいいのだ。
              与那覇潤   

 この文章の解説として
 同時代の社会を捉えるために「歴史」の中にそれらを丹念に位置づける努力を人々はしなくなった。それでも、国の隅々にまで、あるいは国境を跨いで、一つの歴史をおしつけ。刷り込もうとするよりは、この語り得なさの絶望の内に立ち尽くし、「歴史」の記憶を密かに繕いつつ、「歴史」が朽ちゆくのを眺めているほうが意味あると歴史学者は書く。『荒れ野の六十年』から。
 この思想は、私の「廃墟は 廃墟たらしめて保存する」という私の想念と合致するものであります。
 こうして私たちが<核兵器のない世界>を目指して、こつこつと「対話随想」を続けているさなか、二月五日の新聞に米国防省が、低出力で「使える核兵器」と称される新型の小型核弾頭を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を海軍が実験配備したとの記事が掲載されていました。
 この低出力核弾頭の潜水艦配備は初めてで、核戦略の増強をはかる中国、ロシアに対抗する狙いもあると報道されていました。
 この記事を読みながら、私は核の抑止力の強化はおろか、新たな危険を生み出すだけのようにしか思えませんでした。新聞のさらに細かい報道によりますと、この小型核弾頭は爆発力を抑え、敵の施設への局地攻撃などを想定して開発されたものだということです。
米メディアによると現行の核弾頭の爆発規模は約百キロですが、小型核弾頭は約五~七キロトン。.広島に投下された原爆は一六キロトン。長崎は二一キロトンだということですが、核が惨苦を再びもたらすことが「小型だから」と正当化されるシナリオなどは、人道法上許されるはずもなく、武力衝突の規模を制御できると思うのも誤りです。
 今年は、広島、長崎の被爆から七十五年に当たります。冷戦期から世界の核管理の支柱である不拡散条約(NPT)も、発行から半世紀になります。四,五月には、条約加盟国が五年に一度不拡散と軍縮への関与を確認する再検討会議が開かれることになっておりますが、その義務は果たされていません。その一方で、北朝鮮は核開発を止めず、南アジアや中東も核問題に直面しております。非核国が中心になって結ばれた核兵器禁止条約について、日本は保有国と非核国との橋渡し役を自認しておりますが、その存在感は薄いものであります。
 トランプ政権は核兵器関連予算の大幅増額を求め、核の役割を増大させる構えです。「核の傘」強化を求める日本政府は「核体制の見直し(NPR)を高く評価した経緯があります。
  

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