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日めくり汀女俳句 №52 [ことだま五七五]

五月三十日~六月一日

         俳句  中村汀女・文  中村一枝

五月三十日
雪の下人に知られず鯉あそぶ
            『都鳥』 雪の下=夏

 東京の自由ケ丘は、東京の中でもお酒落なショッピングの街。
 町の一画にある和風喫茶、ごく普通のしもた家に多少手を加えただけの、一昔はどこにでもあった平屋建ての和風の家だ。落ち着いたたたずまいにひかれ入ってみた。行く度に客が増えている。
 昔風のつつましい庭に画した縁側に座机を置いて茶菓を頂く。
 日本の縁側のゆったりした心持ち、すっかり忘れていた。どこの家にもあった縁側、今ほとんど見ない。日本家屋の持つ余裕、のどかさ、おっとりした雰囲気が縁側に集約されている。

五月三十一日
夏服の贅(ぜい)一通り聞き及ぶ
             『芽木威あり』 夏服=夏

 カリスマ美容師はすっかり有名になったが、最近はアンダーグラウンド美容室というのもあって人気を呼んでいるらしい。若者ばかりか、オバサマ方も出入りしているそうだ。パンクめいたファッションの美容師や、奇をてらう室内のディスプレイ、髪形もまた奇抜そのものだが、意外に中年を若々しくみせる。美容は今や何でもあり、一瞬ぎょっとするメイクもリフレッシュの効果ありと言うことか。

 美しさに寄せる女たちの熱き想いはいくらでもエスカレートする。それでストレス解消になるなら安いものだ。

六月一日
衣更(か)へて遠からねども橋ひとつ
               『花影』 更衣=夏

 最近は中学・高校でも六月一日を以て一斉に更衣をしたりはしないようだ。気温に会わせて使いわける学校も増えている。

 若い頃、白い服を人より早く着るとお酒落(しゃれ)な気がしていた。
 今時分の白い服は、緑の葉とのコントラストがきいている。今日、黒ずくめの服を着た人を何人もみた。これがなかなかシックなのだ。六月の黒って珍しいと思っていたが、友人の話だとこの二、三年、黒がひそかに流行っているという。
 更衣が袷(あわせ)から単衣(ひとえ9、黒から白、という感覚は、とっくに時代遅れのようだ。

『日めくり汀女俳句』 邑書林

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