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梟翁夜話 №56 [雑木林の四季]

肺炎と鶏たち

               翻訳家  島村泰治

支那の武漢に肺炎が流行している。原因が掴めないそうで、昨日あたりのテレビでは、武漢行きの列車が全て取り消され、空港でもえらく厳しい規制が敷かれているようだ。別な情報源では、ほぼ全国に及んでいるというから話はおおごとになる気配だ。さなきだに保健体制が緩いかの国では、収束までどれだけかかるか予想もできない。

国際的な対応をと乗り出したWHOが、妙な動きをしているのも気になるところだ。緊急事態宣言の発表を控えた理由が現地からの「情報不足」だという珍な状況が、WHOの側の例の斟酌があるようにも見えるのだが。

いや、話は武漢でなくごく身近に起こった肺炎のことだ。これは、敷地内に住まう妹の連れ合いが高熱で入院したことが切っ掛けの、結局は杞憂に終わったエピソードだ。

わが庵には十数羽の鶏がおり、愚妻が日夜心血を注いで飼育している。結構な卵が食卓を賑わし、僅かながら最寄りの「べに花ふるさと館」で売りにも出している。餌作りから水やり、小屋の掃除などがひと仕事だ。

年明け早々に台湾行きが予定されて、その間の鶏の世話を件の妹の連れ合いに委ねることになり、手取り足取りやり方を伝授して台湾へ向かった。ご存知、蔡英文の圧勝でにこやかに帰国してみれば、鶏の世話を代行していた当人が、我々が帰国してちょうど1週間目に何と肺炎で入院してしまった。しかも抗生剤が効かず、隔離病棟に入っているという。

原因が分からないところも武漢並みで、武漢からの情報では何やら動物を介した感染かもしれないと報じられていることから、鶏小屋の埃が彼の肺に影響を与えたかもしれない、と肺炎発症の因果関係を愚妻が気に病むことしきり。お前は毎日鶏小屋に出入りしていて何もないのだから大丈夫だろう、と、なだめながらも、こちらは折から引き受けた翻訳仕事が追い込みになっている矢先、いらぬ神経を高ぶらせる始末であった。

それから5日。どうやら杞憂に過ぎなかったことがわかった。治療で熱が下がり、隔離部屋から4人部屋に移ったと、愚妻が嬉々として報告してきたのだ。

これから大陸の肺炎が災いするかどうかという時期の、とんだ肺炎騒ぎであった。


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