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日めくり汀女俳句Ⅱ №50 [ことだま五七五]

五月二十四日~五月二十六日

          俳句  中村汀女・文 中村一枝

五月二十四日
翡翠(かわせみ)が掠(かす)めし水のみだれのみ
               『春雪』 翡翠=夏
 久しぶりにフランス映画を見た。ヌーベルバーグ以来の今フランスに吹いている新しい風だと紹介されていた。七本の内の二本いずれも女性監督。
「柔らかな水」は船上生活する三人家族に闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れ、家族の間に波紋を起こす。変わる沿岸の風景、その間の微妙な人間関係、絶妙な味。もう一本「少女」。十四歳の少女が海辺で行きずりの男に魅かれ身をまかせるまでの心理描写。少女の好奇心が次第に深みにはまっていく。フランス文化の土壌の深さ、繊細なニュアンス、ため息が出た。

五月二十五日
山の子のいつもひとりで雨蛙
            『汀女句集』 雨蛙=夏
 エスカレーターの踊り場で五、六歳の女の子が不思議そうに動くベルトをそっと触り、また離している。エスカレーターで子供が事故を起こすことがあるから危ないなと思いながら、幼女の驚きと好奇心が新鮮で、みとれてしまった。
 普段、何気なく触れているだけのベルトだが、子供だったら、どうして、とか変だとか思うはずだ。次から次へと同じベルトが回っていてベルトだけがどんどん先へ行ってしまぅ。私まで幼女の好奇心につられて見ていたら、「危ないでしょ。早く降りなさい」。ママの一声だった。

五月二十六日
さみだれや診察券を大切に
             『春雪』 五月雨=夏
 汀女は一度JRで、一人で大森へきたことがある。持病の胆石に上手な先生がいるといぅので私が連れて行くことになった。
 改築前の大森駅の改札口で待っていると、長身の汀女がゆったりと階段を上ってきた。少し長めの羽織丈、薄いサングラス、七十代の汀女は人の中でも見映えのするすてきな老女だった。連れていった先の医者は、汀女と知ってか知らずか高飛車な調子で患者の心得を説いた。

 汀女が不機嫌になっていくのが私にもわかった。以降、二度とその医者の所には行かなかったようだ。


『日めくり汀女俳句』 邑書林

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