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検証 公団居住60年 №48 [雑木林の四季]

第三章 中曽根「民活」―地価バブルの中の公団住宅

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

8.「借地法・借家法改正要綱試案」に自治協意見書

 借地法・借家法「改正」の動きは、公団住宅の家賃および建て替えの行方に直接かかわわっていた1985年11月の「改正に関する問題点」提起につづき、法務省民事局参事官室が89年2月に「借地法・借家法改正要綱試案」を公表するにいたって、「改正」問題は一挙に緊迫してきた。
 全国自治協は法改悪の動きにたいし全戸署名、地方議会請願をかさね、法制審議会、国会にむけても反対の意思表示をつづけてきた。
 「要綱試案」が公表されると、89年3月に全国公団住宅居住者総決起集会をひらき、4月実施をまえにした消費税の家賃課税反対、消費税廃止を訴えるとともに、「借地・借家法改悪に反対する特別決議」を採択した。同時に「要綱試案」にかんする意見照会団体に全国自治協を加えるとことを求める要請書をまと法務省に提出した。数日後に法務省から全国自治協に意見照会があった。わたしが全国自治協の意見書(約19,000字)を書いて、同年9月末に提出した。
 法務当局は、近年の地価の異常な高騰、住宅問題の量から質への転換等により、現行の借地法・借家法と「現実の要請」との間にずれが生じてきており、大きく変化した情勢のもとで当事者双方の公平な利害の調整のあり方にどうあるべきかの見地から「要綱試案」を公表したという。これにたいし自治協意見書はまず、「異常な現状」をひきおこしたのは法ではなく、政府の責任であることを確認すべきであり、「現実」を追認してその要請に対応しようとする法改正のあり方に異議を申し立てた。こうした法改正は、現実の要請を規制するどころか、事態の進行を合法化し、いっそう異常ならしめる。
 「要綱試案」ねらいは、一言でいって、貸し主の権利強化であった。これまで借り手の生存権保護を目的に、貸し主の自由に一定の制限を加え、両者を対等に近づける工夫をしてきたのにたいし、それに逆行するものであった。借地法・借家法の核心は、「存続期間」「正当事由」「地代・家賃の値上げ理由・手続き」にあるが、「試案」は、借地契約の最初の存続期間、更新後も大幅に短縮し、正当事由は借地・借家とも考慮すべき事項を多様化したうえで、金銭給付もそれに加え、要件を大幅に緩和している。さらに正当事由を要しない定期借地・借家契約の新設を提起した。地代・家賃の値上げにかんしては「比隣の土地・建物の賃料の高低、利用状況の変更その他の事情の変更」をも正当事由に組みいれ、紛争解決の手続きは、訴訟の前には必ず裁判所による調停に付すこととして非訟事件化をはかった。調停には不動産鑑定士等の助力を得ると説明していることからも、契約の個別性を無視して賃料の市場化、引き上げの「簡易・迅速化」をめざしたといえる。
 全国自治協の意見書は、はじめに、公団の高家賃化および建て替え実施(問題点と居住者の生活の実態を指摘して意見書提出の理由をあげ、総括的意見として「改正に反対」を表明し、「改正作業の中止」を求めた。そのうえで、「試案」の各論については、正当事由および公団家賃改定に関連して意見をのべた。
 正当事由については、①裁判実務上すでに明確であり、明文化の必要はない、②正当事由の緩和は借り手の権利を弱める、③収益本位の建て替えが居住者を追い出す、と3つの視点から公団住宅建て替えの問題点に言及した。
 正当事由の判断にさいし、従来一般条項として賃貸人が「自ラ使用スル必要性」を基本に居住と生業の権利保護をしてきたのにたいし、「自ラ」を取り去って「当事者双方が土地・建物の使用を必要とする事情」のはか「利用状況」「地域の状況」「その他いっさいの事情」など考慮すべき事項を拡大することによって、借り手の立場はますます弱められる。さらに正当事由の金銭的処理の明文化は、制度の消滅、借家権の骨抜き、つまり「地上げ」の合法化につながる。
 さきの85年「改正に関する問題点」は、建物の大規模修繕、建て替えの必要性をそれ自体として正当事由に加えることを示唆したが、これを避けて「建物の現況」等におきかえた。「試案」の説明では、建て替えの必要性の検討は「建物が老朽化しているかどうかはもとより、社会的・経済的効用を失っているかどうかとの観点からもおこなわれうるものであろう。第2に、建物が敷地の利用関係上から存立を続けられなくなるとの事情も、この考慮のなかに含まれるといってよいであろう」と言いきり、立退き料等の金銭給付を正当事由に加えることで、法の目的の生存権保護から営業的利益保護への傾斜を明らかにした。
 家賃改定については、(彰家賃値上げ要件の緩和は公団家賃の市場化に拍車をかける、②値上げの判断基準をふやし明文化することは社会的混乱をまねく、③値上げ特約の容認は、公団家賃の自動的値上げに道をひらく、④家賃改定の手続きは当事者間の協議・話し合いを原則にすべきである、の4視点から意見をのべた。

『検証 公団居住60年』 東信堂

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