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往きは良い良い、帰りは……物語 №79 [文芸美術の森]

往きは良い良い、帰りは……物語(こふみ会通信)
その78  ◆◆忘年特別句会◆◆
      「快」「身の丈」「河馬(かば)」今年の流行語「ワンチーム(ほか)」
     
                    コピーライター  多比羅 孝(俳句・こふみ会同人)

◆◆令和元年11月24日◆◆
当番幹事の永井舞蹴氏及び大谷鬼禿氏より案内状が届きました。
いや、実はその前に、幹事さんから私・孝多に相談がありました。
年忘れの句会だから、いつもとは、ちょっと違ったことをしたいと思っている。
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ついては、兼題のひとつは≪特定の漢字一字を句の中に詠み込むべし≫という注文をつけたものにしたらどうだろうか。
良かったら、その漢字を孝多に考えてほしい、という相談。
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★そこで孝多が提案したのが「快」です。「カイ」「こころよい」で作句すること!「快」こそ生命の営みの根源だと思うからです。
ただし、その漢字を使うに当たっては「熟語」ではなく「単語」であること、という制限付き。

★なお、同様に、兼題のふたつめは≪時事句≫にしたいので、それを、これから矢太氏に相談するつもり、と幹事さんは言って居られました。
こうした経緯があって作成され、各位に送られたのが、下記の案内状です。

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『12月こふみ会』のお知らせ

あっという間に、もう暮。今年最後の『こふみ会』です。
●12月8日(日) 午後1時から
●いつものTCCです。
●会費1500円。1000円程度の景品(食品)3つご用意ください。
クリスマスということでワインなど差し入れ歓迎。

今回は「忘年会企画」として、多少趣向を凝らしました。
今回は4句とも無季語のお題としますので、俳句にする方は季語を
入れて作ってください。そうでない方は、それなりに……

兼題1 漢字一字(出題者・孝多)
   【快】*ただし熟語での使用は不可。「カイ」「こころよい」で使用。
兼題2 時事(出題者・矢太)
   【身の丈】
兼題3 大型動物(出題者・幹事)
   【河馬】

*席題になりますが「今年の流行語」の中から出題する予定です(幹事)
今回は各お題ごとに「特別賞」が出題者から出る予定です。力作を期待します。

●出欠の届は即、舞蹴あてお願いします。(遅くとも11月中)

                                ■幹事=永井舞蹴/大谷鬼禿
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これを受けての返信レターは……またもや傑作。いい感じです。どこか愛嬌のある凄み。軒外氏からのもの。

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ご馳走も、いっぱい! 美酒揃い! 嬉しい差し入れで~す。
写真左から「天狗舞」「澤乃井・さわ音」「コム・サ」。       

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保存料・合成着色料いっさい不使用の亀戸・升本の弁当

◆◆昭和も遠くなりにけり◆◆
句会の当日は、12月8日! 私は気になって仕方がありませんでした。
しかし、誰も、≪その日のこと≫を話題にしませんでした。
流行語などについては、あんなに、いろいろ喋り合っているのに……。
12月8日はあの大戦争が始まった日です。「大東亜戦争」(太平洋戦争)です。でも、でも、ああ、皆さん、もしかしたら、ご存知ないことなのかもしれません。
草田男の「明治は遠く……」ではありませんが、「昭和」もまた、古い、遠い、ムカシのことなのでしょうか。
当時、毎月8日は「大詔奉載日」と決められ、学校では「奉安殿」に「対し、たてまつり」、先生も生徒も、小使いさんも、一同、整列して「最敬礼」をする日でした。
1941年(昭和16年)12月8日。この日はその世代の人にとっては、忘れようとしても忘れられない一大転機の日。大東亜戦争が「勃発(ぼっぱつ)」して、この日から、我が日本は軍国主義一色に塗りつぶされて行ったのです。孝多少年は小学2年生。

(いやあ、失礼しました。今回の軒外氏の句に「計画運休を考える真珠湾の日に」というのがありました。恐縮。)

 ◆◆さて、句会当日のTCCの会場の壁面には……◆◆
   
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案内状に示されていた詠題が、改めて、賑やかに張り出されました。
でも、まったく、オモハユイ気持ちです。
いや、これが一番、分かりやすい、ということで、そうなってしまいましたが、孝多賞とか(恐らく矢太氏も同感でしょうが)矢太賞とか、という賞の名前。芥川賞や直木賞、大佛次郎賞や兜太賞などを連想する限り、オハズカシ。

ところで、上載の「ワンチーム」の貼り出しの末尾に記された「別紙」とは下記、読売新聞12月3日号の記事の写しのことを指して居ります。幹事さんが切り抜いて複写して1枚ずつ、各位に配ったのです。この流行語群の中から適宜選んで作句してくださいという次第。       

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この、一覧表のように組まれている読売の記事の、左下の方に「翔んで埼玉」というのが載っています。
これを見た某氏が私・孝多に、軽く言いました。「孝多さんは、これで作ればいい。」
私が埼玉県民であることを、某氏は、よく知っているのです。
でも私は、「ダメなんですよお~。あの本、読めないんですよ~」と答えることしかできませんでした。
もう、何か月か前、『翔んで埼玉』を購入して、さて、読もうとしたら、読めないのです。私は痛感しました。≪ああ私には、今のマンガを読むリテラシーが無い。≫
そのことが、つまり、≪今のマンガ≫ということが、某氏に分かってもらえたか、どうか、会話はそれきりになりました。

◆◆さあて、さてさて……本日の「通常の成績発表」で~す。◆◆
「特別賞」はそのあとで、出題者から、発表されま~す。

★本日のトータルの天は~40点の舞蹴さ~ん。パチパチパチッ。
 代表句は「一時(いっとき)の快をむさぼる日向ぼこ」

★トータルの地は~34点の紅螺さ~ん。パチパチパチッ。
 代表句は「恋多き河馬の身の上話聞く」

★トータルの人は~27点の下戸さ~ん。パチパチパチッ。
 代表句は「河馬2匹乗っちゃダメだよ女子高生」

★トータルの次点は~24点の弥生さ~ん。パチパチパチッ。
 代表句は「身の丈に適(かな)ふ起き伏し障子貼る」

皆さん、おめでとうございました。パチパチパチッ。    

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左から人の下戸、地の紅螺、天の舞蹴。(撮影=軒外) 敬称略。        

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決して「俳画」ではない、独特の面白さを示す「絵付き短冊」。今回も好調に12枚。
 
◆◆いよいよ忘年句会の締めくくり。特別賞の発表!◆◆
「快」「身の丈」「河馬」「流行語」の出題者であり、かつ、各賞の選者であるご当人が、それを説明するに当たって、当日、席上で述べたことを、後日、下記のように、まとめてくれました。改めて、じっくりとお読みいただきたいと思います。

★さて、来年、正月の句会は1月12日と決まりました。また新しい気持ちで、楽しく集まりましょう。
どうぞ、お元気に。良いお年をお迎えくださいますよう。
                              令和元年十二月吉日     孝多 拝
                             
追伸=当日は忘年気分で二次会も開かれました。出席者は、店(そば処)の予約までしておいてくれた鬼禿氏を先頭に、軒外、下戸、珍椿、紅螺の各氏と孝多の6名。表参道の深夜の「そば処」は、おつまみやら何やら、まるでバー(酒どころ)のようでした。変わって行くんですねえ、何事(なにごと)も。

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                    ★★初めての賞「特別賞」について★★
幹事さんから依頼されて詠題を考案した人、つまり、出題者が、当日、選者となって、その題で作成された全句(今回は自作も含めて12作)の中から、これぞと思う1句を選び、それを席上、口頭で披露し、讃えます。
特別賞としての賞品も選者が求めて来たものを、お手渡しします。
これが特別賞です。
同一の句が天・地・人・客としても注目されることもありましょう。結構なことです。
今回は12月8日に行なわれた、この催(もよお)しで述べられたことを、後日、ブログ用としてまとめてもらいました。
どなたの、どの句が選ばれたのか。その評価のポイントは何であったのか。賞品(記念品と呼ぶべきでしょうか。)はどんな品だったのでしょうか。
などなどが記されて居ります。どうぞ、じっくりとお読みくださいますよう。
こふみ会の特別賞は、皆々様の俳句の制作力、鑑賞力、楽しみ力の増強、増大に役立つ存在であり続けたいものと願っています。   
先ずは矢太氏の言葉から。

          ★★感動の「身の丈句」★★ 岩永矢太
 兼題を提案して、と12月の幹事に頼まれて、とっさに決めました。11月の終わりころだったから、あの文科大臣の一言が浮かんだ。「身の丈」です。
 「身の丈」は、身長のことではない。比喩です。生活の、人生の、人間の丈でしょう。なかなか切ない言葉ですね。
 さて、結果です。この日のこふみ句会に並居る「身の丈句」たちの中に、この句を見つけた時の感慨を、後で表彰のとき弥生さんの句と知って、私は彼女にこう告げた。
「この句は、弥生さんの句歴の中の代表句となりますよ、きっと。」

 身の丈に適ふ起き伏し障子貼る 西村弥生

 俳句の典型に迫り典型を超えた叙情句です。
 因みに、出題者矢太の句は「おうどんの身の丈鍋の底あたり」だから矢太賞の景品は稲庭うどんにしました。弥生さん、障子貼り終えたら「うどんすき」でも食べてくださいね。        

                 ★★「流行語賞」出題と選句の責任★★ 永井舞蹴
「右見て左見て声はりあげるにわかファン」珍椿
新しい年号「令和」でスタートした今年ですが、
大規模災害や事故も相次ぎ、政治不信、消費税増税など、
どちらかというと暗い話題が多かった印象があります。
ラグビーや女子ゴルフの明るい話題がそれを救ってくれました。
珍椿さんのこの句で使われた「にわかファン」も流行語大賞のノミネートの
中にははいっていましたが、残念ながらトップ10には漏れたものです。
大賞の「ワンチーム」を使って作った句が多かった中で、
先ずこれを選んだところが、他の句との差別化になってます。
「右見て左見て」と、字余りなのですが、ラグビー観戦の臨場感がよく出てると思います。
句全体から、にわかファンが一生懸命声張り上げて応援している絵が浮かびます。
にわかファンから、本当のファンになって欲しいものです。
景品は、クリスマスシーズンにふさわしいドイツの焼き菓子「シュトーレン」を用意しました。句に押し上げられて、おかげで、どうやら責任は果たせたと思います。

        ★★「河馬賞」は沼田幹外氏へ★★ 大谷鬼禿
どでんとした句がよろしいと思って兼題の一つを「河馬」にしました。
作りやすかったでしょ!?
坪内稔典センセーの河馬シリーズを思い出せばいいんですよ。
「水中の河馬が燃えます牡丹雪」
「桜散るあなたも河馬になりなさい」
「桜咲く河馬は口あけ人もまた」
「寝そべって一山(ひとやま)となる冬の河馬」
いくらでもありますよお~。
今回ワタシが即座に納得したのは、
軒外さんの「河馬ほど河馬らしいヤツはいない」です。
惜しくも総合の天地人には届かなかったけれど高得点だった。
ナンセンスなところがいいのです。
というわけで「河馬賞」は軒外さんです。
河馬賞の中身=「宇津木パン」の食パン2斤とバケット。(形状から。) 以上です。

             ★★自ら句となりて「漢字一字賞」★★ 多比羅 孝多
「母の詞(ことば)自ら(おのずから)句となりて」という前書きが付いている、ご存じ、正岡子規の逸句。
『毎年よ彼岸の入りに寒いのは』
これは子規が「もう、お彼岸だというのに、寒いね。」と言ったのに答えた母親の言葉そのまま、と、されています。
返事の言葉が、そのまま俳句になっている、という子規の発見!

こふみ会の12月8日の句会の席で、ふと、この子規の句が私・孝多の頭の中を過(よぎ)ったのは下記の一句に出会った時でした。
『スイマセンお互い様よと快(こころよ)く  大取下戸』

素晴らしい! 下戸氏のこの句は子規の句と比べて、何ら遜色ありません。あるいは、遥かに凌ぐものとも受け取れます。
電車の中でしょうか。バスの車内? いずれにせよ、席をゆずった人と、ゆずられた人の間に、暖かい心の通いが生まれています。
その瞬間を作者・下戸さんは見事に捕らえました。
少々武骨(ぶこつ)な言葉づかいのようですが、いいえ、いいえ、この「お互い様よ」が効いています。下戸さん、第三者としてナイス・キャッチです。
下戸さんは、俳句をスポーツ感覚で楽しんでいるとも申せましょう。
漢字一文字を入れなくてはならないという制約付きの句作なのにも拘らず、鮮やかです。

有難うございました。当方の出題に対して、こんなにも佳い句が誕生したとは、出題者冥利につきます。良かった、良かった。
賞の記念品としては、「快」を「貝」に結びつけて「帆立」「鮑(あわび)」「浅利」の缶詰3種セットを進呈しました。

●続いては、いつものとおり『本日の全句』のご紹介です。

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第600回こふみ会   本日の全句
令和元年(2019年)12月8日    於 TCCクラブハウス
◆兼題=快      順不同
いつの間にか冬が来て心は快      珍椿
快く思えぬ奴も来る師走かな       矢太
快の字に縁なき日々や冬深く              茘子
ラグビー後(あと)「快」見あたらぬテレビ箱  鬼禿
スイマセンお互い様よと快く                 下戸
おらが「快」はいい音いい酒いいオナゴ    尚哉
豆腐殿湯加減如何快なるや                    虚視
呑み干(ほ)すや快の一言(ひとこと)年終(お)える  孝多
快もあり不快もあったね十年日記      軒外
一時(いっとき)の快をむさぼる日向ぼこ  舞蹴
木の音聴き幕あく気配快き         紅螺
ママをやめお袋にした十五の冬快        弥生

◆兼題=身の丈    順不同
暮れ早し身の丈ほどの毒もなし        軒外
身の丈にあった暮しや冬支度                  舞蹴
年の暮れ身の丈ほどの小宇宙                  珍椿
身の丈のこの侘び住い足るを知る       紅螺
おうどんの身の丈鍋の底あたり        矢太
身の丈のクリスマスケーキ軽き愛             茘子
雪便りはや身の丈に届くほど       虚視
ママチャリで身の丈を知る一年生       下戸
身の丈に合わせて生きて年の暮れ       孝多
身の丈に適(かな)ふ起き臥し障子貼る   弥生
身の丈を悟(し)って夕日の熟し柿      鬼禿
身の丈を知るは熟年すぎでよし        尚哉

◆兼題=河馬     順不同
恋多き河馬の身の上話聞く                     紅螺
河馬先生池の廻りを三巡り半         珍椿
極東の師走の夜を眠る河馬          弥生
ぬったりと泥道を行く我は河馬        尚哉
河馬の背でナイルの夢か冬の蠅               茘子
冬日浴び河馬はケニアの夢を見る       虚視
初雪に口開けて上野の河馬が鳴く       矢太
河馬ほど河馬らしいヤツはいないな      軒外
まあだだよ隠れ上手の冬の河馬        舞蹴
河馬疾(はし)るどろ泥だらけ千曲川   鬼禿
河馬2匹乗っちゃダメだよ女子高生       下戸
はらはらと河馬の背に散る紅葉(もみじ)かな  孝多

◆今年の流行語(「ワンチーム」ほか)  順不同
計画運休を考える真珠湾の日に         軒外
タピるとやら接する縁(えん)なく年は過ぐ 孝多
ラグビーのルールさておきワンチーム   舞蹴
空財布(からざいふ)憂うことなし世はキャッシュレス  紅螺
ジャッカルで彼氏のいないクリスマス   弥生
ワンチームどう住み分ける多様性         尚哉
右見て左見て声はりあげるにわかファン  珍椿
はぐれ者なにがうれしいワンチーム       下戸
タピル君唇に雪にくらしい            茘子                           
ワンチーム早え~話がバラちらし         鬼禿
びっこのジャッカル冬のサバンナに消ゆ   矢太
隠蔽(いんぺい)に改竄(かいざん)廃棄ワンチーム     虚視

                               以上12名48句
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水野タケシ

孝多先生、明けましておめでとうございます!!

今回も大変楽しく拝読させていただきました!!

1月の句会も楽しみにしています!!O(≧∇≦)O イエイ!!
by 水野タケシ (2020-01-01 09:50) 

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