SSブログ

梟翁夜話 №54 [雑木林の四季]

「総統選挙の台湾へ」

                翻訳家  島村泰治

この一文を「知の木々舎」の諸兄姉が読まれる頃、ある島国で政治が大きく揺れる。好ましいベクトルに添って動くか、一転奈落に落ちるか、この国の運命を左右する出来事が起きようとしている。帰趨によっては国難にもなり兼ねぬ事態の推移を、いま世界が見守っている。その島国とは、ご存知、台湾だ。ここで年明け早々総統選挙・立法院選挙が行われる。将に香港騒ぎの真っ直中、台湾の民意がどう出るか、その結果如何は友邦たる日本にとり只ならぬ影響がある。

私の台湾歴はほぼ60年、ここで総督として奉職されたわが愛する乃木さんの故事まで入れれば、はるか昔から台湾への思いは深い。ある折、母国の自決を願うひと群れの台湾人と袖を摺り合い、名も「台湾青年」という機関誌の英訳に関わるようになった。それを切っ掛けに、私は台湾という島国と向き合うようになり、独立運動の面々を見知った。書きものを通じ行事での雰囲気に絆(ほだ)されて、乃木さん以来の私の情緒的な台湾像は、生々しく、ときに血に塗(まみ)れた島国の近代史に塗り代わり、その動向は他人事ならず心に懸かる。

数年前、ある台湾人の名著を英訳出版する話を持ちかけられた。語学者で作家、日本統治下の旧制高で学ばれた秀才で、名は王育徳、当「知の木々舎」で健筆を奮われている王明理女史の父君だ。同氏の「台湾-苦悶するその歴史」の英訳を託され3年の短期で訳出、英文版は無事台湾で出版され、好評のうちに版を重ねている。この作業を介して、私は台湾を一段と身近に感じるようになった。

さて、この拙文の主旨はこうだ。

島国と書きながら、国連に席もなく15ヵ国のみに承認されているに過ぎない台湾を、世界は「国」とは見ていない。何たる不合理。技術立国として世界に多大な貢献をしている、紛れもない国家である台湾の現状を看過してよかろう筈がない。

今次総統選挙で蔡英文が再選されればその勢いに乗り、よしんば不本意な結果になれば尚のこと、日本はこの際その立ち位置を180度変え、米国との友好を梃子にその台湾関係法に倣い日台関係法を成立させ、隣国として利害をシェアする台湾と毅然として国交を結ぶべきだ。

現実を見れば、その台湾には蔡英文のもと、曲がりなりにも台湾人による政府が存在する。生殺与奪の権を米中に委ねて、二国間の駆け引きの切り札に甘んじつつ、蔡英文の台湾はひたすら東アジアの海中に漂うかの如くだ。これはいけない、これは台湾のあるべき姿ではない。

トランプ大統領との只ならぬ友誼を誇る安倍晋三首相が、ここ一番、「中国は一つならず」と広言して台湾を抱(いだ)き込み、魔の軛から解き放すために一臂を貸さば、わが友邦台湾への何よりの外交の果実となり、歴史的長期政権の晩節を飾るに足る快挙となろう。
私は過去四回ほど、選挙絡みで台湾を訪れている。何の因果か、その都度台独派は苦杯を舐め、切歯扼腕した。さて、今次は如何かと情勢を見るに、香港騒ぎの波が蔡英文を押して、どうやら支持率は上昇の気配、地の利は此方にあると見た。ならば、と縁起を払い除けて、果然訪台を決意した次第。幸いリハビリ中の膝もごく快調、必ずやよき夢を見られるものと、久し振りの台湾旅行を楽しみにしている。


nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。