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コーセーだから №58 [雑木林の四季]

創業哲学 19

         (株)コーセーOB  北原 保

ウの毛ほどの油断も
企業の経営は真剣勝負

コーセーの成長

 コーセー化粧品は年々125%の成長率で着実に伸びた会社といわれる。が、果たして繁栄の一途だったのか、いや、後日語られる場合はとかく数字や統計の魔術にごまかされるのが歴史である。
 コーセーの社歴を見ると、昭和26年には従業員数は132人にふくれ、当時の女性雑誌「スタイル」とか「主婦の友」に大々的に広告を開始、翌27年には北区栄町に建て面積約2560平方メートルの工場を完成、本社も豊島町から移転して、化粧品の制度メーカーとしての基盤を築いている。社員たちにすれば「発展そのもの」愛社精神に燃えるだろう。が、社長の小林孝三郎氏の頭の中には、別のコーセーの社歴があった――実はコーセーの経営のガンを捜していた。
 「企業というのは、急に膨張すると、どこかに歪みができるわけです。その歪みをいち早くみつけて『ここはいかん』となおしていくことが、2年に一度、3年に一度はありましたよ」
 コーセーは第一期の難関である税金攻勢を切りぬけ、26年の第二の難関といわれた乱売時代は、協約制度という定価販売でむしろ好況だった。だから大学出をどんどん入社させて、次のステップへの万全を期していた。
 ちょうど昭和27年ころだ。小林社長は製品開発部新製品の原価計算表を見ておどろいた。定価5~600円のものが定価2~300円のものよりも利益が極端に少ないことが判った。
 当時日本経済はインフレでかつ成長途上にあった。小売業界は高級品の出現を待っていた。そこで若いコーセーはいち早く高級化粧品に着手していた。まかされた各部では高級イメージを創り出すためには、意匠部はビンから箱のデザインにチエをしぼり高級香料を使って香りの粋を競った。そして経理はその原価をプラスして計算する役割り、その結果が原価高になったというわけ。小林社長はツンボ桟敷にすわっているようだっだ。つい1~2年前には社長自ら専務を相手に綿密な原価計算をしてきたが、経理が独立し、意匠部、技術部門と発展して、各部門が独自に動いている。
 「これはいったいどういうことだ」と小林社長はソロバン片手に原価計算をやってみた。ところが、500円の高級化粧品を売るより200円の化粧品を売るほうが3倍ももうかることに気づいた。
 「ヒヤッとしましたよ。こんな高級品を一年も出していたらコーセーはつぶれていたでしょうからね」
 早速、小林社長は幹部を呼んで「誰がやったんだ」と怒鳴ったが、誰も返事がないはずである。どの部門も高級品をつくろうと夢中になっていたのだから……。
 「原因は大学出がはいり社員がふえて、コミュニケーションが悪くなっていることに気がついたんです。良心的すぎて原価計算をこえては商売にならないということを、みんなハダで感じた貴重な経験でしたね。それから化粧品はとかく表面の意匠ばかりに金をかけたがるが、コーセーは原価にあった最高の品をサービスするという考え方が徹底されました」
 小林社長はつくづく「経営というものはむずかしいものだ」という。企業が大きくなればなるほどそのガンに気がつかなくなる。当時の倒産会社は大きくなってつぶれた会社が多い。針の穴のようなことが会社をつぶす原因になる――。
 京都のマリオ化粧品などは〝破竹の勢い〟で、コーセーより伸びる会社といわれた。なにせ東京のデパートに舞妓さんを集めて鳴り物入りで宣伝をしたり全国の小売店を京都に招いてどんちゃん騒ぎをしたり等々。結果、火の消えるようにつぶれてしまったという。
 昭和28年の朝鮮戦争後の不況は、日本経済に大きな影響をあたえたが、コーセー化粧品はひとりこの不況の中に好況だったという。一足先に手を打った小林社長の経営者としてのカンが光っていたからだ。若さや学歴よりも、経験がかったというひとつの例である。
                                        (日本工業新聞 昭和44年10月30日付)

(注)
●京都のマリオ化粧品の躍進について、当時の小林孝三郎社長はあわてる社員たちにむかって「不思議は永く続かない」と語ったといわれる。小林孝三郎語録のひとつでもある。
*小林孝三郎語録として「血のかよった取引」「ひざを交えて話そう」「完全制度品」「最高より最良を」「正しきことに従う心」「慢心を退けよ」「権威は自ずからつくる」などが伝わっている。


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1953(昭和28)年に業界紙に掲載した企業広告(この広告に使われているコーセーのカタカナロゴは公募で決まった新書体)

19-2.栄町工場.jpg
1952(昭和27)年に完成した栄町工場

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1952(昭和27)年には新工場完成を記念して新しい企業ロゴの公募が行われた

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