SSブログ

検証 公団居住60年 №47 [雑木林の四季]

第3章 中曽根「民活」~地価バブルの中の建て替え

     国立市富士見台団地自治会長  多和田栄治

7・公団は借地法・借家法「改正」に何をもとめたか?
 公団住宅居住者は、家賃のくりかえし値上げにくわえて「建て替え」で苦しめられることになる。その背景には、自民党政権の「行政改革」と「民活」・公団民営化路線があり、法制面では借地法・借家法「改正」としてあらわれた。
 公団家賃についていえば、公団法にもとづき新規家賃は原価の全額回収方式により高額に設定し、改定は公団法規を棚上げして借家法7条1項を根拠に市場家賃化をはかってきた。しかし公団は家賃裁判には手を焼いたのか、同条2項の「当事者間に協議整わざるとき」の裁判による紛争解決方式をきらって、「簡易・迅速」な値上げ手続きをもとめた。これから始める建て替え事業にも借家法1条の2の正当事由制度を障害とみて改正意見を出していた。
 借地法・借家法の「改正」をいち早くとなえたのは経済団体連合会であり、1982年4月に発表した「土地政策に関する意見」のなかで、宅地供給促進、土地の有効利用をはかる建て替え促進のため、「借地・借家人の権利を必要以上に保護している面」の見直しを主張した。同年7月には第2次臨時行政調査会も第3次答申で同法の「合理化」を進言し、地主・不動産業界をはじめ経済団体等が騒ぎだした。
 中曽根内閣が出現して地価高騰と土地投機がすすむなかで借地法・借家法「改正」への圧力はさらに強まり、85年7月に臨時行政改革推進審議会は借地法・借家法の再検討を答申して、法制上も都市再開発の「自由化」を迫った。同年11月には法務省は「借地・借家法改正に関する問題点」を公表し各界の意見をつのって「改正」作業をはじめた。
 公団が提出した意見書の要点は-
1.現行法では建て替えや大規模修繕は、賃貸借の更新を拒み、解約を申し入れる正当事由にはならない。正当事由につぎの2項目の追加をもとめた。

 ①「賃貸人が当該建物を取り壊して別個の建物を築造し、またはその敷地を建物の所有以外の目的に使用する計画を有する場合において、これを実施することが相当であると認められるとき」
 ②「賃貸人が賃借人または転借人にたいし相当な代替住宅の提供、移転等に要する費用の支払等相当な代替措置を講じたとき」

 その理由として「公団においては、賃貸住宅の増築、改造、建て替え等入居者の退去を求めなければならない事例が増加しつつあり、退去を求めるにあたって、②の措置を講ずることとしているが、これらの措置により更新拒絶のための正当事由が具備するかどうかについて、明文規定を欠くため、紛争を生じるおそれがある」とし、明文規定をすることでの「紛争予防の効果は大きい」をあげた。

 2・家賃改定にかんしては、「地域別に賃料のガイドラインを設定し、ガイドラインの範囲内の賃料改訂については、簡易に認め、ガイドラインを超えるものについては相当の主張・立証を要するというような措置を講ずるべきである」「立地、経年、仕様の要素の指標により、住宅については賃料のガイドラインを設定することは不可能ではない」
 家賃紛争の処理については、「現行の当事者主義訴訟では無理」「これらの判定のため、特別な争訟裁定機関(賃料審判所)を設けるべきである」と、家賃紛争を裁判にもちこませない方策をもとめていた。

 公団の意見には、建て替えについて民間ディベロッパーと同じ開発手法の発想ばかりが目立ち、公共住宅の特性にふさわしい具体的な措置への配慮はみられず、家賃改定についても、市場動向に自動的にスライドして値上げすることを考えても、高齢者や低所得者に過重な高家賃化への歯止め、居住者との協議・話し合いを基本に団地管理の円滑化をはかる観点がないのは、一目瞭然である。


『検証 公団居住60年』 東信堂

nice!(1)  コメント(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。