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日めくり汀女俳句Ⅱ №47 [ことだま五七五]

五月十五日~五月十七日

         俳句  中村汀女・文  中村一枝

五月十五日
筍(たけのこ)も肴(さかな)も煮てぞ発(た)たせたく
             『汀女句集』 筍=夏
 この句を見ていたら、不意に汀女の「これも食べなさい。あれを持っていかんといけんな」という声が聞こえてくるような気がした。
 汀女の家に行くと、帰りにあれを持ってけ、これを持ってけとうるさく言われる。私はうんざりして汀女の言葉をいい加減に聞き流していた。
 江津を訪ねたとき、祖母ていも不自由な眼で「これも食べな、あれを持ってかにゃ」と言う。汀女の人への気配りは母親譲りと知った。生前はその親切がわずらわしかったが、今となるとわずらわしい言葉が懐かしい。

五月十六日
言ひのこす用の多さよ柿若葉
              『春雪』 柿若葉=夏
 手に触るるものすべて若葉のような今の風景。
 去年、テニスコートに待つ間の日除けにと二本、樺の若木が植えられた。去年は、若々しいがどこか頼りなげで、風情も幼い木だった。今年、冬を越えた今、ひと回り大きくなって格好な木蔭を作っている。緑蔭とはよくぞ言ったもので、ひと度若木の下に座ると、さらつく初夏の太陽も柔らかな斜光に変わる。若い葉越しの日ぎしがさわやかだ。人間の十七歳ってそういう時のはずなのに、今、健やかと言う言葉がいろんな所から消えてし
まった。

五月十七日
バラ散るや己(おの)がくづれし音の中
              『紅白梅』 薔薇=夏
 手入れもしないのに今年もバラが咲いた。
 油かすくらい入れてやりたいと思うのだが、以前、入れる側から犬に掘られ、揚げ句の果て肥料を食べたりするので肥料もやめた。もう今年は花はつくまいと思っていると五月の陽光のきらめきの中に蕾が、十も十一も、そして開いた。
 放りっぱなしのシンビジュームがこれまた見事に開花。冬どきは根までからからでひからびそうだった。二十センチもない建物のすき間に今年もライラックがやさしい色香を放つ。苛酷な環境に耐え花は開く。過保護より放任、人間の話ではない。

『日めくり汀女俳句』 邑書林

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