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日めくり汀女俳句Ⅱ №45 [ことだま五七五]

五月九日~五月十一日

          俳句  中村汀女・文  中村一枝

五月九日
つつじ咲く母の暮しに加はりし
               『都鳥』 つつじ=夏
 汀女の句の中にはいつも母がある。一人娘のせいもあるだろう、この母娘は、近くにいても、遠く離れても相手を思い合い、互に身の上を気遣っていた。
 母ていは、熊本市近郊の旧家、園田家の出身。気丈で、しっかり者で更に働き者である。多分に気分屋の所もある夫、平四郎をひき立て、斎藤家の身代を守り通した。
 一人娘を嫁がせたのも、この人ならではの堅実な現実感覚だった。
 故郷の家を離れず九十八歳の天寿を全うするまで、娘を思い支え続けた一途な親心が、汀女の句心を育てた。

五月十日
苗床のほかなる土の甘草の芽
                   『都鳥』 苗床=春 甘革の芽=春
 結婚して、それぞれの家のしきたりや、習慣の違いに驚くのは当たり前だが、私が一番戸惑ったのは汀女の家と、父の家のお客さんの違いだった。父の所に来るのは男の客ばかり、それも酒を飲まない男など一人もいない。いわばバンカラ、無礼講の客である。
 汀女の許を訪れるのはほとんどが女性客、お品がよくてお行儀のいい奥さま方だった。あいさつのていねいさもこれまた初めての経験、どこで頭を持ち上げたらいいのか、「えいっ」と顔をあげてみると、目の前に深々と下げられた頭がまだあった。

五月十一日
口あけて一声づつの仔猫泣く
             『紅白梅』 仔猫=春
 今は烏の繁殖期らしい。近くの桜の大樹の頂上付近に烏が巣を作り始めたと友人が言った。
 「クリーニング屋さんの色とりどりの金物の衣紋掛け組み合わせて上手に作るの。でも子供が生まれると凶暴になるって言うから」
 彼女は困ったような顔をした。
 犬の散歩の時、何度も頭すれすれを低く徘徊され、一寸こわい思いをした。集団で威嚇的に飛び回られると身をよけたくをるが、一羽木の枝に止まっている鳥は利口な目でこっちを見ている。山でなく町で「七つの子」を育てる苦労の目である。


『日めくり汀女俳句』 邑書林

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